「直接の触れあい」という矛盾

毎年のことだけれど、採点というのは骨が折れる作業だ。僕の場合、大教室の講義が多いうえに、それほど機械的に採点できるような問題は出さないので、数百枚の答案にざっと目を通し、全体の傾向と水準を把握してから個別に採点、なんてことをやってるとそれだけで日が暮れてしまう。単純に、紙を右から左に動かすだけでも結構な労働なのだ。

ただまあ、それだけの数の同じテーマについて書かれた答案を読んでいると、そこからある種の「傾向」が見えてくるのも事実。特に何かの代表性を持つわけでもない「最近の学生を見ていると」っていうセンセイ語りの特権化はあまり好きじゃないのだけど、以下は単なる「感想」であって、成績評価その他とは無関係の話ですよ、ということで。

メディア、特にネットやケータイについて講義で触れると、かなりの数の学生が現代社会の問題として「メディアが介在することによる人間関係の希薄化」を題材に選んでくる。さすがに「ネットのせいで人々の触れあいがなくなっている」という単純な解答はほとんどない(というか、僕の講義を聴いていてそんなことを書いてくる奴は単に話を聞いていないだけなんだけど)。おおむね、メディアを介在したコミュニケーションは、その内容に着目する限り「希薄」だとか「にせもの」だといった風に表現できるような単純なものではないことを踏まえた上で、それでも生じてくる諸問題、たとえば「ネットいじめ」や「裏サイト」や「ケータイ依存」をどう考えるか、というという体裁を取ることが多い。

面白いのは、その解答に見えてくるある「矛盾」だ。すごく大雑把な言い方をしてしまうとそこには、「もうケータイを手放すことはできないのだから、昔に戻れというのは無理。それで便利な思いもしてるし。でもやっぱり問題は起きるから、小さいときから直接の触れあいの価値を知ってもらわないとね」ってな感じの答案がぼろぼろ出てくる。前段と後段の比重の違いはあれ、これはどこの大学でも同じだ。

大学の試験だから、教員の言ってることや問題の行間を読み取って、うまいことバランスの取れた答えを導き出そうとした結果がこれなのかもしれない。でも、普通に文章を読んでいると「へ?そうなの?」と声に出してしまうような、大きな矛盾を平気でジャンプしているような答案があまりに続出すると、それはそれでうむむと呻ってしまう。

あるいは、クリエイティブ系の連中に企画をやらせても似たような話はよく見る。こちらでは多くの場合、企画設定時の課題として「コミュニケーションの不足」が挙げられるのだけれど、その不足を解消するために、わざわざ回りくどいインターフェイスをたくさん介在させた上で、「これでみんなが仲良くできます!」という椅子から転げ落ちそうなビジョンが次々出てくる。そんなに君たちの間でコミュニケーションが不足しているっていうんだったら、ネットとかケータイを使って誰かと繋がるツールなんか捨てて、一緒に酒でも飲みに行ったらどうよ?と思ってしまう。

これも面白かったのだけど、あるチームは「本」の貸し借りを媒介に「繋がり」が生まれるインターフェイスを展示していて、そこにやってきた別の学生にデモの説明をしていたときのこと。設計側の子がデモ展示用に持ってきていた本を、展示を見に来た学生がいたく気に入って「これ面白い!」と絶賛。持ってきた子も「そうそう、これ、ホントに面白いんですよ!」と大喜び、という場面があって、わざわざケータイだのレコメンドだの言わなくても、こうやってブツを持ってきて楽しく話すことで「つながり」が生まれているのに、そのことといま自分たちが展示しているものとの矛盾は、なぜ意識されないのかな、と。

むりやり話を敷衍してしまうと、きっとこういうタイプの「繋がり」を巡るテンプレートが、どこかでスタンダードになっているんだろう。そこでは繋がりは、ものすごく直接的なものとして志向されている一方で、その「本当の繋がり」を得るためには、途中で様々なメディアを介さないといけない、あるいはそういう回り道に価値があるということになっている。だから誰一人として「ネットとかケータイが普及して、もうこんなに友だちが増えたんだから、誰とも関わらない社会を目指そうぜ」なんて言わない。コミュニケーションのチャネルが増えたことで、僕らは「ほんものの繋がり」から疎外されたのだが、にもかかわらず/だからこそ、そのチャネルをわざわざ通って、何者も介在しない「繋がり」を得ようとするのだ。

「ケータイなんか捨てて、直接触れあうべきだ」と誰もが言う。けれど、その「繋がり」を得るためにこそ、ケータイが必要なのだとしたら?実はこうした傾向は、いくつかの調査データからも明らかになりつつある。「直接の触れあい」というテンプレ的な物言いは、その現実を覆い隠すクリシェとして、十分な威力を発揮している。

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