3月のいただきもの

雑記

3月は色々と新刊をいただきました。ありがとうございます。順不同でご紹介させてください。

暴走するセキュリティ (新書y)
芹沢 一也
洋泉社
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今は亡き『論座』で連載されていた「ホラーハウス社会」の書籍化。多くの人がセキュリティを、自身の活動の一部として理論的に取り込んでいく材料にしている中、まっすぐにセキュリティや治安の問題を、フーコー派として分析するアクチュアルさを維持しているその姿勢には頭が下がる。こうしたテーマは常に「トレンド」の波にさらされるし、一度論じたことを繰り返すことには書き手としての抵抗も生まれるから、ついつい浮気をしがちなのだけれど、本質的には何も解決されていない論点は多々あるわけだから、こういう仕事が出てくることには十分な意味があると思う。

ヤンキー文化論序説
ヤンキー文化論序説

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五十嵐 太郎
河出書房新社
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書き手の幅も豊かな話題の本。実は僕も「ヤンキー漫画」というテーマで依頼をいただいていたのだけれど、詳しくなかったのでお断りした。マンガについては森田真功さんの原稿で扱われているけど、とてもいい見立てだと思った。自分が講義で「不良」や「ヤンキー」「ギャング」を扱うときには、その「メディア化された身体性」というジレンマを中心に扱うのだけれど、本書を参考に、具体的な資料に当たってみるのも面白いんじゃないだろうか。

増補 地図の想像力 (河出文庫)
若林 幹夫
河出書房新社
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95年に出た作品の文庫化。地図というメディアを、そこに広がる権力性や志向から読み解く試みは、地図がデジタル化されるだけでなく、リアルタイムに更新され、またそれが個人向けにカスタマイズされる――つまり「どこに境界線を引くか」を巡って、他者と揉めることが少なくなる可能性が高い――現在において、面白い視座を提供するものになると思う。地図の権力性を批判できた時代から、共有された地図の喪失を嘆く時代に変わったのかもしれない。

ポピュラーTV―ポップカルチュア選書「レッセーの荒野」 (ポップカルチュア選書「レッセーの荒野」)
平井 智尚 藤田 真文 島岡 哉 小林 直毅 小林 義寛 大淵 裕美
風塵社
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著者の藤田先生と小林義寛先生からいただきました。大塚-東-宇野の議論を踏まえて「マンガ原作のドラマ」について論じた藤田先生の論考は、「原作と違う!」という僕らの感覚の出自をよく言い当てていると思うし、小林先生の「声優」を巡る声の文化と「実在性」の問題は、僕も「身体なき身体性」の話として、特にエロゲーの声優問題に絡めて考えていることの、ひとつの材料になると感じた。講義で使う場合は、ここで書かれていることをベースに、どう「社会学」できるかで、教員の力量が問われるかな、とも。

街場の大阪論
街場の大阪論

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江弘毅
バジリコ
売り上げランキング: 7587

版元のバジリコの編集者の方から頂きました。ちょうど『ミーツ』で仕事をしていることもあって、内田樹さんと並んで話題になることが多い名物編集者の連載をまとめた本。60年前後生まれの世代が見てきた「金ピカの80年代」と「街場のリアル」との対立は、こうして東京を離れてみるとすごく実感を持って受け止めることができるので、大阪の現実をカオスとして描くその手法に、昔ほど抵抗はない。けど、そこで仮想敵にされているデベロッパー的なもの、東京的なもの、バブル的なものって、いまそんなに力を持っているだろうか?芹沢さんの本じゃないけれど、「権力は下から来る」のだ。ヒルズ的なものを求めているのは、都会のいけ好かない金持ちじゃなく、泥臭い街場が嫌いな、ネオ郊外をジモトとして生きる「フツーの人たち」ではないのか。色んな意味で、今後の仕事の参照点になる本。

例外社会
例外社会

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笠井 潔
朝日新聞出版
売り上げランキング: 11775

700ページを超える大著に、この数年の論壇/思想界隈のトピックがこれでもかと詰め込まれた笠井さんの新刊。「完全雇用社会」の崩壊と「例外状態の出現」という形でまとめられる現代は、思想だけでなく、戦後の学生運動なども含めた、社会感覚の変容と関連した出来事であるという、その辺りを一覧できるという点で、若い読者にお勧めしたい本。特にかつてのマルキストとソーシャリストの対立のようなものが再来し、「行動派」による「理論派」の恣意的な総括と批判が跋扈し、妙な対立図式が生まれているネットの議論に慣れた人なんかに。個人的には、大澤さんと僕の議論を比較しつつ、「選びようのなかった生を生きる複数の私のサンディカ」というアイディアに展開していく流れは、とても興味深いと思った。僕がハイデガーとレヴィナスを比較しながら考えていたのも、近い部分があったので。

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