「真面目な人が報われない」

どう論じたものか悩みながら、『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』を見てきた。友人の手配で監督挨拶の回に行ったら、最前列のど真ん中というポジションで、監督が文字通り目の前。さすがに恥ずかしくて(何でだ)顔を上げられずにいたので、監督が僕に気づいていたとは思えないけど、もっそい怪しまれてたろうなと思う。神山さんごめんなさい。以下ネタバレ込みの感想。

劇場版Iを見たときからだいたい気づいていたけど、本作の主題は、東のエデンのシステムや、それを駆使した「ニート」たちの集合的な力ではなく、それを利用する「王様」としての滝沢と、それに対抗する物部との政治観の違いへとシフトしている。両者の違いはいくつもあるが、それはたとえば、強い動機付けを持たない滝沢に対して、意志を持ったリーダーの必要性を認識している物部、といったところにも見られるが、より本質的なのは、性善説を採り、みんなで生き残ることを志向する滝沢と異なり、物部が、日本を抜本的に改革するためのダウンサイジング、平たく言えば国民の「間引き」を目指していることだろう。

まず押さえなければいけないのは、両者がともに、現在の日本における世代間の不平等の存在を認めているところだ。物部は「相続税100パーセント法案」を通すために様々な画策を行ったし、滝沢も劇場版IIのラストで、高齢世代に呼びかけを行う。そもそも「ニート」対「既得権」といった構図そのものが世代間対立として提示されているし、そこで「ニート」たちとは、不平等な資源配分の下、新しい社会作りのために意志を持って行っていることが、既存の価値観や経済の枠組みの評価から外れているから、そう呼ばれているに過ぎないという、そういう存在として描かれているわけだ。

その世代間不平等を解消するために「間引き」を容認すれば、当然だが生き残るのは、若い世代ではなく、優秀な人材だ。つまり物部の志向は、若年層への共感ではなく、既得権への憎しみに駆動されている。それに対して滝沢は、どちらかといえばそうした対立ではなく、ただおもしろそうな人がいるから、彼らを支援したいという程度の動機で動いている。彼が考える「直列につながるとものすごいポテンシャルを発揮する」という言葉の真意は、彼らを自分のために「利用する」のではなく、そのポテンシャルを「引き出す」ものだったという意味だったのだ。

二人のリーダーシップの違いは、物部が官僚的なピラミッド型システムにおけるリーダーを想定するのに対して、滝沢が水平分業型チームにおけるコーディネーターのような存在を意識していると考えれば、現代社会におけるひとつの興味深い対立軸の表象であると見ることもできよう。けれど僕がもう少しずれたところから考えたいなと思ったのは、滝沢的なものと、物部的なものが同じく「世代間対立」の中に含み込まれている、いまの社会の状況だろう。

そんなことを考えたのは、『思想地図』の最新号特集「社会の批評」を読んだからだ。例によっておもしろい論文が並んでいるのだけど、どちらかというとこれまでより年長の世代の書き手が目立つ(最年少は東園子の78年生まれ)。そのせいか、新しい価値や考え方提示し、我こそが一歩前に出てやろうというぎらぎらした意識ではなく、そうした若い世代をたしなめたり、学術的な知見から批判したりする記述が目についいた。個別にはそれは正しいのだろうが、僕はそこに、ある種の編集意図を読み取れる気がする。ごく簡単に言えば「社会批評、ちゃんとやろうぜ」という。

ちゃんとやると、どうなるのか。おそらく真面目に研究活動をして、社会批評に向き合っていこうという人が正しく評価され、その時々の時流に乗った言説を根拠もなく垂れ流し、ネットの評判に媚び、次々と前言を翻す「売れ線」の人々の評価が相対的に低下する。佐藤論文では、学術の世界における論争が数年単位で行われるようなものであることが示され、批評と社会学を融合させるなら、社会学の最新の成果へのアクセスを怠るべきではないと述べられている。

一方、ちゃんとすることが求められる環境そのものに、世代間不平等の構図を見いだすのが菅原論文だ。学問の世界において、成果が求められるようになるほど、回帰分析で結果が出せそうなテーマばかりが選ばれる一方、本質的な課題は解決に向かわないという苛立ちは、政治学だけでなく社会学にも共通の状況だ。そしてそれは、テニュアのポストに就いた年長世代が非競争的な状態で居座り、若年層だけが競争を強いられるという状況によって生み出されていると指摘されている。

おおむね賛成だが、最後にごく簡単に述べられる解決策については、あまり同意できない。若手優秀論文の懸賞による査読制度の健全化、院生の外への就職の推薦、年長世代の研究者の競争推進といった解決策は、評価制度が「既得権」のようなものと独立に設定しうると想定できるならば一定程度は健全に機能するだろうが、たとえば大規模調査のように予算を取ってくる能力や、既存の研究基盤を受け継ぐことで得られる先行者利益が大きい研究、日本社会批評や文化批評、文学研究などのようにドメスティックな評価が先行する分野などでは、その世界の「ドン」におべんちゃらを使える奴だけが生き残る、いびつな日本社会の構図の反復しか招かない。最低でも、公的予算で行われた調査はすべてマイクロデータまで公開することを義務づけない限り、東大の偉い先生の弟子筋だけが得をする状況は変えられないだろう。

世代間対立というのは、実際には平等なものの言い方だ。年長世代には得をした人間しかおらず、若年層には損をした人間しかいない、そういう話だ。だが現実には、その損得は相対的、あるいは確率論的なものでしかなく、同じ世代の中でも「断層」が生じている。そして、世代間対立に託された避難の矛先は、むしろその断層に向けられていることが多いのだ。100324 上の図で言うなら、世代間対立の中で不遇な位置にある人の中にも、A’とB’の間の断層が存在している。たとえば物部のような人は、A’の立場にいるわけだから、世代間対立を原因となっている対象は、Bの人たち、つまり、世代が上と言うだけで評価されている、しかし年長世代の中でも断層の下にいる人たちだ(点線の矢印)。だから彼は、Bの人も、B’の人も切り捨て、間引きすることで、自己責任に基づく評価システムを完成させようと考える。

それに対して、物部に協力しつつも最後は彼へも怒りを向ける「既得権批判者」結城はB’に属している。これまでの階級闘争的な世界観の中なら、結城は実線の矢印の格差を生んでいるシステムを批判し、B+B’の共闘をもくろんだかもしれない。だが「世代間対立」という構図に落とし込まれて理解された彼の不遇は、結果としてBとB’との格差へも怒りを向けさせる分断統治の機能を果たし、Bに対する「健全な競争への参加」を要求させられることになる。結果としてできあがるのは、「A’>A>B’>B」という序列のシステムだ。

その逆説を生んでしまう理由はなんだろうか。大きな意識の差になっているのは、AとBの断層を生む評価システムと、A’とB’の差を生む評価システムへの理解だろう。より簡単な言い方をすれば、BもB’も、「真面目な人が報われない」ことに苛立ちを覚えているが、その「真面目な人」の内容が変わっているのだ――「黙々と言われたとおりに働く善良な人」から「競争でうまく立ち回れない不器用な人」へ。

滝沢は最終的に、A+BからA’+B’(とりわけB’への)資源移譲を求めるが、結局はうまくいかず、B’の中での協同生活という、見事な団塊世代の再生産へと行き着いてしまう。僕はこの結末はあまり評価できないけれど、ひとついいところがあるとすれば、世代間対立の構図が結局誰を不幸にするのかを示し、それ以外の希望を示そうとしたところにあるだろう。

僕が考えているのは、世代間の不平等を招いている構造的な問題と、両者の感情的な対立は別に考えるべきだし、その上でAからBへと、A’からB’への分配を分けて構想する想像力が、どうやったら獲得できるだろうかということだ。A+BからA’+B’への分配は政治や経済のシステムで、世代内での分配は経済と感情のシステムで行うという二重構造を作るべきだし、ノブレス・オブリージュというならその方が適切だ。

現実に、そうした世代内分配を可能にするための協同作業は、若い世代の中で始まっていると思う。『思想地図』やその周辺人脈だけでなく、それはいろんなところで芽を出し始めている。「ちゃんとしようよ」というかけ声が、こうした協同作業を阻害し、「健全」な「既得権獲得競争」を推進する帰結を招くとすれば、それはとても残念なことだと思う。

その意味で、今回の『思想地図』で一番すてきだなと思ったのは、佐藤論文に織り込まれた強いジレンマの感覚だ。彼は、誰よりも「ちゃんとする」ことの価値を分かっていながら、「ちゃんとする」ことによって注目を集めてしまうことが、最新の学術的な成果から乗り遅れてしまうという現実をも直視している。世代間対立に着目して声を上げ、その声が聞き入れられるくらい「売れる」ほど、自分は健全な競争環境から落ちこぼれてしまう。ちゃんと研究したいと思うほど割を食うから、制度改革へのインセンティブは低下するというオチだ。だとするなら必要なのは、「ちゃんとする」人と「売れる」の人との間に、互いをインチキだとかセンスがないとか批判するのではなく、補完的な関係を築くことであるはずだ。制度を変えられる人より、その関係を築くことができる人を、僕は自分の世代のリーダーだと認めたいと思う。

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