6月と7月のいただきもの

今月もいろいろといただいています。編集者の方からいただくことが多いので、直接つながりのない方の本が読めるのはとてもありがたいことです。

Kindleショック インタークラウド時代の夜明け (ソフトバンク新書)
境 真良
ソフトバンククリエイティブ
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著者の境さんからいただきました。KindleとiPadの話を軸に、電子書籍などのコンテンツビジネスと、クラウド的な利用が中心になっていくインターネットの未来予測が展開されている。目先のiPadばかりを見るのではなくて、全体の構造がどうシフトしていくかを考えるのが大事で、その辺をうまく指摘した、新書らしい新書。

AR-拡張現実 (マイコミ新書)
小林 啓倫
毎日コミュニケーションズ
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Augmented Reality(拡張現実)の現在について、具体的な事例と動向を紹介した本。著者がジャーナリストであることもあって、AR関連でありがちな技術紹介、こんなことできますよー的なプレゼンにとどまらず、社会的なインパクトについても述べられている。特に第5章「コミュニケーションを変えるAR」、第7章「空間を変えるAR」のあたりは、いま準備している本の内容とかぶる部分が多くて、参考になった。

父として考える (生活人新書)
東 浩紀 宮台 真司
日本放送出版協会
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アイロニカルなタイトルの本だなと思う。この世の中にはものすごい数の「父」がいるのに、あえて「父として」考えなければいけないのは、その人が、「父」なるものから遠いと見なされているからだ。まえがき、あとがきで著者たちが語るように、それは本書が、90年代に援助交際を擁護した宮台と、00年代にオタクを擁護した東の対談本だから、という文脈に由来する遠さだ。

内容そのものは、子育て論というよりは、子育てをするための社会環境、都市環境、コミュニケーション環境の本であり、それらを有機的に結びつける「豊かな社会」は、どのようにイメージ可能か、という点に重きが置かれている。特に宮台さんは意識的に、『14歳からの社会学』以降くり返してきた、日本にもある時期まで存在していた社会の豊かさを取り戻すべく、この点を強調している。

その内容に反対するわけではないけれど、僕にとってはその社会はあまり居心地のいいものではない部分を含んでいるし、それにもかかわらず、本書のような本が、勘違いした都市設計家や建築家に妙な影響を与え、かえって(ある種の人々にとって)生きづらい社会を作ることになりそうだなあ、というあたりを、どうしても危惧してしまう。だからこそ必要なのは、この議論を共有した上で、そうした設計家との直接的な対話を通じて、彼らが何を分かっていないかを僕らが理解し、指摘していくことが大事なんじゃないかって思うのだけどね。

不況は人災です! みんなで元気になる経済学・入門(双書Zero)
松尾 匡
筑摩書房
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不況がもたらす弊害を経済学的に指摘し、ニューケインジアン、金融緩和、デフレと、最近よく出てくる話をきれいにまとめつつ、単なる「経済学・出羽の守」にならない入門書を目指して書かれた本。経済学の中の細かい学派は僕には分からないけれど、ネットなんかでプレゼンスのある人たちと、そう変わらない主張になっているんじゃないかと思う。

ただ、内容よりもその伝え方については、大きな違和感を持った。不況が「天災」だと信じ込んでいる人って、この世にどのくらいいるのだろう? 普通の人は、不況が具体的な誰かの人災だとは思っていないかもしれないけど、避けようもない天災だとも思っていない。というより特に何も考えていないから、天災か人災はどうでもよくて、個人としてできることをこつこつやりながら、いつか嵐が(誰かの力で)過ぎていってくれればいいなあと思っているだけではないのか。

分かりやすい入門書を作るためには、読者が、どのようなことを分かっていないかを正確に把握する必要がある。本書が想定している読者は、不況を天災だと思っており、デフレってモノの値段が下がるからオトクじゃーん、と思っており、景気のいい悪いは自分とはあまり関係のない出来事だと思っている人だ。そんな人、いるのか? いたとしても、その人が経済学入門を読む動機はどこにあるのだ?

こういう読者を想定して分かりやすくしようとするあまり、リフレ派に代表される、ネットで人気の経済学にありがちな罠が、この本でも再生産されていると思う。本書を読んだ、経済に関心のある、ものを考えるのが好きな人はこう思うだろう。世の中には不況が天災だと思っているバカがいて、そういう奴らは日銀の金融政策がもたらす効果について何も知らず、彼らの無知のせいで、不況から脱する策が打たれずにいる。こうした無知蒙昧な人たちは、ネットで見かけたら即啓蒙だ!と。

まあこれも話を分かりやすくするために同じ罠に乗っかった表現だけど、要するに、分かりやすくしようとするあまり、読者を過剰に典型的なバカと想定してしまい、その結果、現実の読者は、その「想定されたバカ」を見下すツールを手に入れた、と思ってしまうのだ。これは、俗流に誤解されたフェミニズムがかつてやった失敗である。男性という存在を過剰に差別的で家父長的で暴力的な存在と想定した結果、「そこまで俺たちバカじゃねえよ」と思った男性たちから、フェミニズムはそっぽを向かれてしまったのだ。リフレ派がある部分で分が悪いのは、彼らの主張ではなく、もしかしたら、話を分かりやすくするために行った読者の想定の方に問題があるんじゃないか。そんなことを考えさせられた一冊だった。あ、ちなみに中身はまっとうな本なので。

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