手拍子は2と4で

100806-01 おそらく今世紀最初の大規模ニュータウンである越谷レイクタウンは、噂には聞いていたものの、実際に行くまではどんな場所なのか、正直よく分からなかった。2008年3月に町開き(!)したこの地域は、駅も、ビルも、緑地も何もかもが新しく、35度に届こうかという猛暑日にも、サニーデイよろしくぐにゃりと波打ったりはしない、切り立ったエッジを見せている。その何もかもがきちんとした駅前北側も、後ろを振り返ると見渡す限りの緑地で、かつての多摩ニュータウン(90年代でも見渡す限りの造成地は存在していた)や初期のお台場を思い出した。

駅から繋がったイオンモールは、「KAZE」「MORI」と名付けられた二つの建物からなる、イオンとしても最大規模(ふたつ合わせた敷地面積が約10万㎡)のものだ。両者は運営主体が異なるものの、建物としてもコンセプトとしても繋がっているので、お客がその辺を意識することはない。エコを前面に押し出しているらしく、館内設備には環境に配慮した設計が多く取り入れられている。周囲が緑の大地なのに、夏休みの子ども向けに「館内の施設を案内するエコツアー」が企画されているのは何の皮肉なんだろうと思ったけど、ベンチがたくさん用意され、バリアフリー化が進んだ施設内を歩いていると、昨年のマザーズセレクション大賞リブコムアワードを受賞したのもうなずける気がする。

週末だったこともあって、イベントスペースでは新人R&BシンガーのCD発売イベントが開催されていた。新人歌手の営業と言えば、百貨店の屋上とアイドルの組み合わせというイメージはもう古いらしい。古くなったのはアイドルだけではなくて、百貨店の屋上という空間が持っていた非日常性も同じなのだ。

100806-02

お客の数こそまばらだけど、彼女が目当ての若い子だけではなく、普通に買い物に来た家族連れが足を止めて見ていることに気づく。30代から40代くらいだろうか。50代以上と思われる層もちらほら。ステージでの音リハの後、本番が始まる。お客さんはダンサブルなトラックと生演奏のピアノに合わせて手拍子。クラップのタイミングは、頭打ちではなく裏打ちの2と4。

すごいなあ、と純粋に思う。ほんの少し前まで日本人は、シンコペーションで手を叩くことも、裏ノリのメロディを歌うことも苦手だったのだ。ましてどんなにJ-POP化されていようと、日曜日にショッピングセンターで黒人音楽を聴きながら買い物なんて考えられなかった。そう思いながら他の店舗を回ってみると、アパレル系、小物雑貨系のお店ではハウスやパンクが爆音で流れている。反体制のユースカルチャーが資本主義に取り込まれた、なんてカルスタの人は言うかもしれない。越谷でパンクとかwって言う人もいるのかもしれない。でも、その始まりから何十年かたってこの国もようやく、普通のおじさんだってR&Bを2と4で手拍子できるようになったのだ。それを文化の堕落なんて言ったらバチが当たるよ、と思う。

その一方で、この豊かな空間には、何かが足りないとも思う。ベンチでは老人がくつろぎ、子どもが走り回り、中学生カップルがデートしている。でもそこには、多様に見えて、何かが巧妙に排除された、奇妙な均質性が感じられるのだ。それは例えば言葉の違う人たちの集団だったり、重度の障害者だったり、服装の汚い人だったり、単に「空気の読めない」人だったりする。物理的なバリアフリー化は進んでいるけど、外国人向けのナビゲーションなんかは見当たらないのだ。

アラン・ブライマンは現代の商業空間の特徴の一つに「テーマ化」を挙げる。テーマ化とは、商業空間に特定のナラティブを持ち込むことだ。そのナラティブは、空間の設計者と、従業員と、そして来場者の協働作業で構築される。だからこそテーマ化された空間にとってもっとも歓迎できないのは、貧乏だとか外国人だといった属性に関わるものではなく、そのナラティブを破壊する人だということになる(それゆえそこで生じる排除は、あからさまな差別とは違うものとして意識される)。

子育てと環境に配慮した、都心から離れたニュータウンのショッピングセンターは、ある意味で理想的な空間だけれども、言い方を変えれば日本の中流家族のためのゲーテッドコミュニティだ。アメリカ由来の音楽を聴き、彼らのグルーブで手拍子を打つ僕たちは、それだけ開かれていながらも、同時に閉じている。文化が開かれ、成熟することと、生活やコミュニケーションが開かれることは別の出来事なのだ。誰もが不安なのであり、生活のための足場が欲しいのだ。

それにしても、ここには何でもある(クルマまで売ってたのには正直驚いた)。そんな中で、ふと店先のショーウインドウに飾られたタペストリーに目がとまった。毛沢東の刺繍とともに、下には「文化大革命大勝利万歳」の文字。前の日に乗ったタクシーで、運転手さんが、自分の妻は中国人なんだけど、文革世代で、大学なんか行ってないっていうんだよね、と話していたのを思い出した。サブカル大国たる我が国の文化大革命は、きっとある意味で「大勝利万歳」と言うほかないのだろうな、と思った。

ディズニー化する社会 (明石ライブラリー)
アラン ブライマン
明石書店
売り上げランキング: 255495

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする