ライフスタイルセンターの未来

「ライフスタイルセンター」というコンセプトが日本で注目を集め始めたのは、せいぜいがこの4、5年のことだと思う。というか今でもショッピングセンター(SC)界隈の一部を除けば、あまり知られている概念ではないけど。

伝統的にSCでは、NSC、CSC、RSCといった商圏や敷地面積などの規模に基づく区分が用いられてきたのだが、流通システムやニーズの多様化を受けるかたちで、「安いものを大量に買いだめする」ためのSCや、エンターテイメントを充実させたSCなど、それぞれの特徴に基づく(ある意味で雑多な)ネーミングが行われるようになっている。その中でも特に言及されることが多いのがライフスタイルセンターなのだ。

ライフスタイルセンターとは、簡単に言えばコミュニティ機能を包含したSCのことだ。ちなみにこの言葉は、日米でそうとうニュアンスの違うもので、アメリカでライフスタイルセンターと言えば、富裕層向けのゲーテッド・コミュニティからSC機能が独立したもののようなのだけれど、日本ではむしろ、地域社会に溶け込んだSCという打ち出しをされている。90年代から地域興しイベントを積極的に行い、この分野の草分けになったサンストリート亀戸(東京都江東区)や、06年にリニューアルしたつかしん(兵庫県尼崎市)なんかが事例として挙げられるあたりに、その差異は顕著だ。

しかしそもそも、コミュニティに溶け込むとはどういうことなのか。そのことを実感するために行き先として選んだのは、今年の僕のゼミでも話題になり、6年連続で黒字という、百貨店業界では衝撃的な利益を上げていると話題のダイシン百貨店(東京都大田区)だ。

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噂には聞いていたが、不思議な百貨店だ。百貨店とはいうものの、本館を残してリニューアル中の現在では、1階のスーパーを軸として、家電品や日用雑貨なども売られている小振りなCSCと言った方がいい。常連客の多くが高齢者であり、店内に流れる速度は、若者の感覚からすればずいぶんゆっくりとしている。従業員のお客の間のコミュニケーションも、決して活発というわけではないけれど、それは単にある程度見知った仲だからで、必要なことは必要なときにすぐ聞ける関係が築かれていることは、一見して分かった。

しかしそれよりも驚くのは、「わかりやすさ」のようなものとはまったく無縁な店内設計だ。なにしろ大森駅側の入り口から入って、2階へ上がるエスカレーターを探すために、店内を一周して、外に出て、さらに戻ってこなければならなかった(実際は入ってすぐのところにあったのだけど)。ちなみに1基だけあるエレベーターはバックヤードと隣接していて、知っている人でなければまず見つけられない。

2階より上のフロアも似たようなものだ。そもそもどこに何が売られているかという配置に、論理性が見いだせない。カーペットの隣が文房具?鍋の隣に化粧品?挙げ句の果てに、医薬品コーナーの脇には、薬局の前で昔見かけたような、100円入れて遊ぶ遊具。まるでカオスだ。

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それなのに、ここを訪れる人たちは、その配置に戸惑っている風がない。常連客なのだから当たり前なのだけれど、逆を言えば、この配置は既にこれで完成されていて、頭のいいプランナーなんかがきちんと論理的な配置を提案したところで、既存のお客の間に混乱をもたらすだけなのだろう。コミュニティに埋め込まれるとは、そこにある文脈を、店内を通る見えないけもの道を犯さないということなのだ。

サンストリート亀戸の開発に携わった大西直良は、SCの開発においてもっとも重要なのは、コンセプトであるという。そのコンセプトとは、プランナーが企画書に書いてくる、人に優しいだの地域密着だのといった美麗字句のことではない。具体的にどんな人たちと、どんな関係を築いていくのかということだ。それを提案し、実行しようとすれば、既存の文脈への理解、そこにどのように関わるかといったビジョン、従業員に対する教育など、トータルな取り組みが必要になるのだろうと僕は思う。

ダイシン百貨店がどこまで、そうしたことを意識してリニューアルしようとしているのか、いまのところはよく分からない。正直、意識していたとしても、既に既存の文脈が強すぎて、流れに任せるしかないところにきているんじゃないかという印象を持った。それは、東京の工場集積地として始まった大田区という土地の「年齢」が可能にしたものなのだろうし、だからこそ、このまま行くしかないというところはある。むろん、ポイントカードのポイントを地域の他の店と共通化するなどの先進的な取り組みの今後はとても気になるところだけれど。

おそらく日本におけるライフスタイルセンターは、成功事例の積み重ねよりも、そこに賭された「理想」がどのようなものなのか、それが「現場」とどのようにズレていくのか、そのことを測るためのメルクマールとして扱うべき概念なのだろう。特に商業の分野ではこうした謎の概念が横行しがちだけれど、実際に、そのぼんやりとした理想が生む勘違いを扱うことにこそ、現場に入る魅力があるのだろうし。

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