ニュースとしての行動履歴――mixiとfacebook

雑記

最近、ぼんやりとfacebookを眺める機会が増えた。特に何かを発信するわけでもなくて、何かを書くときも英語で、と決めているので、基本的には見ているだけ。しかも流れてくる情報にもあまり興味を持てない(他のサービスだってそうだけど)ので、ほんとにただの「読み流し」。でも、しばらくそうやって読み流しているうちに、facebookのインターフェイスが想定しているのは、そうした「読み流し」なのではないかという気がしてきた。

少し遠回りして説明しよう。人がウェブサービスを利用する大きな動機は「反応が返ってくること」だと言われている。言いたいことを言いっぱなしに言えるからではなくて、自分のアクションに対して何かリアクションが返ってくると、それにさらにリアクションをしたくなってしまう、というわけだ。もちろんそれはポジティブなリアクションばかりとは限らない。けどネガティブなリアクションの連鎖も「2ちゃんねるは殺伐としてるのが本来の姿」といった具合に認められてしまうこともある。

このリアクションの連鎖がウェブ上のコミュニティを生むわけだが、人と人との関係である以上、そこには大きなサイクルというものが存在する。どんな集団でも、出会った当初は気持ちが盛り上がるが、やがて冷めていくものだ。ネットの場合、最初にネットならではの「つながり力」みたいなものがポジティブにはたらいて、あんな人とも、こんな人とも出会えるなんて、素晴らしい!みたいな段階がある。コミュニティが急拡大すると、そこには独特の文化が生まれ、日常とは違う「そこでしかできないコミュニケーション」が、うまくリアクションの連鎖を導くというスパイラルも生じる。

ある程度まで拡大したコミュニティの中に、ノリを共有できない人の存在や、メンバー同士の意見の食い違い、仲良くなりすぎた故の気遣いの必要みたいなものが意識されだしたあたりから、コミュニティは内向きになる。拡大することよりも、既存のメンバーの関係を維持することに注意が向けられるようになり、またそうした人の間でも、リアルで会うのは年に一年くらい、基本はお互いの近況を眺めるだけ、という状態に陥ることがある。

気をつけなければいけないのは、これはあくまでサービス内でのネットワークの繋がり方の問題であって、サービスの利用者の増減とは関係ないということだ。ノリが内輪化して、よほど合う人間でなければ新規参入しなくなるサービスもあれば、内輪での情報共有や関係維持に特化して、リアルの繋がりをウェブ上に持ち込むためのサービスに衣替えすることで、利用者を拡大することに成功するケースもあるわけだ。

ウェブサービスのトレンドの変化は、こうした「停滞する関係」のリセットという動機から生じる場合がある。初期のmixiの話で言えば印象的だったのは、IT関係の人脈を持っている人がmixiに招待される一方で、2ちゃんねるのオフ会コミュニティの人達が招待制をとっていなかったキヌガサに集まっていたのだけど、mixiのオープンから4ヶ月くらいで、一人の人がmixiに移ったのをきっかけに全員が大移動したという出来事だ。ウェブサービスをコミュニティ単位で移動することで、以前のサービスで関わっていた人の中から「付き合いたい人」と「付き合いたくない人」を選別するのである。

ではmixiとfacebookを比較した場合にはどうか。facebookは実名登録が基本だから日本では流行らない、というけれども、実名登録のメリットは、実際に自分を知っている人がサービス内で自分を探せるようにするというところにある。それが歓迎されないということは、職場バレや学校バレが恐れられているということだ。そもそもmixiこそスタート時には実名登録を推奨していたのであり、それがコミュニティの内輪化とともに、リスク回避のために実名登録を非推奨にしたという経緯がある。

ロジカルに考えるならば、リアルの人間関係を志向しているのはむしろfacebookのほうだ。社会学的に言うならば、両者の違いは、人間関係に結びついた自己呈示のあり方の違いということになる。つまり実名登録を推奨するということは、現実の人間関係に基礎づけられた、つまり色んな役割を自分に期待している人の関係から成り立つ自己を呈示することが求められるということである。一方で会社や学校の人間関係と切り離して、ネットワーク上で見せられる「アバター的」な自己呈示を可能にするためには、できる限り実名などのプロフィールは隠されなければならない。

ということは、mixiからfacebookへの「民族大移動」が起こるためには、これまでのような人間関係のリセットとは違う動機が与えられなければならない。たとえばそれは、コミュニティごとに人格を切り替えるようなアバター的なコミュニケーションはめんどくさい、と多くの人が思うようになる、とか。

いまのところ僕の考えでは、mixiからごっそりとfacebookに人が移動するだろうと予想される要因は見あたらない。ただ、うまく機能すればfacebookのユーザー拡大を促すかもしれないなと思うポイントは見えてきた。

ひとつはfacebookのインターフェイスの「わかりにくさ」だ。わかりにくいというのは、言い換えれば、何ができるのかわからない、つまり、facebookの機能を利用し尽くしたいのにそれができないという不満の表明である。しかし、ここに大きな誤解がある。facebookはそもそもユーザーの多くが無数の機能を利用することを予期していないし、想定してもいない。おそらくたいていの人は、どこかで一度会ったきりの薄い友人の近況をぼんやり眺めて、思いついたときにつぶやいたり写真を投稿して「いいね!」とか言われたり、その程度でいいと思うように設計されている。

そう考えると、リリース当初は嫌われたという話も聞く、プロフィール変更だの友だちが増えただのがいちいち友人たちにも告知されるという機能が、実はよくできたものであることに気づく。あれはつまり、自分の行動履歴や個人情報を「ニュース」として友人たちに配信することで、いちいち日記を書いたりコメントしたりしなくても「つながり」を維持できるようにするための仕組みなのだ。

一方でfacebookには、長めの情報の公開や公的な告知を行うための、facebookページのような仕組みも用意されている。でもこうした機能が必要なのは、メディアに勤めている人だとか、文筆家だとか、情報発信に専門的に携わる人であって、ほとんどの人はそれを受け取る側で構わない、という機能なのだ。だから、多くのユーザーは「最新情報」の全てに目を通す必要がない、つまり「ハイライト」でいいや、ということになっている。

他方、mixiの場合、というか日本的な内輪ウェブコミュニティの場合、どうしても自分の情報を日記という面倒な手段で発信したり、いちいちコメントをつけたりすることが求められがちで、「スルー」だとか「見てなかった」だとかが許されにくい傾向にある。つまり多くの人が情報発信に参加することを推奨する仕組みだから、ユーザーはいちいちそのためのネタを探さざるを得ず、また時間も割かなければいけなくなる。ソーシャルゲームだとかその辺も、いわばコミュニケーションのネタだと思えば、日記を書くよりはアイテムだの手伝いだのをやりとりする方が楽ということでしかない。

両者の違いを「軽い」情報と「重い」情報に分けて説明すると、下の図のようになる。

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主として重い情報を発信することを求めるmixiのインターフェイスは、様々な機能を分かりやすく配置し、日記、写真、ゲームと機能を拡大していく中で、誰もが重い情報の発信をしやすくるように設計していた。そのことによってユーザーの滞留時間は長くなり、媒体としての価値も上昇する。一方でそうした「重い」コミュニケーションが苦手な人や、そういう相手がいない人は「不活発ユーザー」という扱いになってしまっていたわけだ。

対してfacebookでは、多くの人は軽い情報を、それもスルー込みで読み流しながら利用することが意図されているのではないか。一部の人はオフィシャルだったり長文だったりする重い情報を発信するが、それがどう読まれるのかという点についてのフォローアップはあまりない。ユーザー視点で見れば、「興味があれば読んでやる」くらいのものになるだろう。

なんだ、facebookの方が気軽に情報発信できるように設計されているよ、という話かと思ったかもしれない。が、そうではない。おそらくfacebookの設計の基本思想には、長期間にわたって情報発信するネタのある人などごく少数だという割り切りがあるように思える。というより、いちいちウェブで相手の近況を知らないとリアルで会ったときに会話が成り立たないとかの方が変でしょ、なのかもしれない。あくまでmixi的なものと比較してね。

その代わり、facebookには「私たちがあなたの代わりに、あなたの行動履歴から友人たちに配信する”ニュース”を生成してあげましょう」という思想がある。現代のウェブは、人とコミュニケーションするためには個人情報を発信するほかないアーキテクチャだ。そしてたいていの人には、個人情報くらいしか売るものはない。mixi的なコミュニケーション、あるいは日本的なウェブコミュニケーションが、その個人情報を「盛る」ことで成り立っていたのだとすれば、facebookはそういうコミュニケーションにはきっと向いてない。けれど、そういう「盛った」少数の人と、個人情報を勝手にアグリゲートされるほかない多数の人、という比率は、ある意味ではすごくリアルだ。それがいいことなのかどうかはともかくとして。

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