リアル空間を付加価値化する

前のエントリの続きなんだけど、日時的には放送文化研究所シンポジウムの一週間前に行われた日本マーケティング協会のセミナー「『ソーシャルエコノミー』の時代」も楽しかった。事前打ち合わせでは盛り上がりすぎて、喉も枯れてたのに2時間くらい喋り倒したり。セミナーそのものは、ソーシャルメディアでの活発なコミュニケーションをどう企業・ブランドへのロイヤリティにつなげるかみたいな話で、まあそれはそれでいいのだけど、個人的には「場所貸し」の発想でいった方がいいんじゃない?という話をしていたのだった。

ソーシャルメディアとは何か、みたいな話にはなかなか答えられないのだけど、マーケティングの文脈で考えるなら、それは付加価値化のための手段ということになると思う。つまり、ソーシャルメディア上のコミュニケーションで、対象となる商品を付加価値化するということで、いわば販促目的の利用ということになる

別のところでも論じたのだけど、こうした販促目的でソーシャルメディアでのコミュニケーションを盛り上げようとすれば、何らかの誘導が必要になるので、バレたときに炎上するリスクを抱えている。販促である以上、対象となる商品のリリースのタイミングがあるわけで、そこに向けた「盛り上げ」が必要になるし、その内容も、送り手側の意図に沿うものでなければならない。だが、新商品が発表されて即座にソーシャルメディアで話題沸騰、なんて滅多なことでは起きないし、盛り上がってるときに好意的な反応しか出てこないなんてあり得ない。

まあそんなわけでこの手の販促PRは難しいですよねという話なのだけど、一方で「空間の付加価値化」の手段としてソーシャルメディアを用いることもできるんじゃないかというのが、先の打ち合わせで出てきた話だった。空間の付加価値化というと、デザインや設計で「おしゃれスペース」に仕立て上げるとかそういうのが一般的だろう。あるいは以前書いたように、高いところとか洋上とか、普通には行けない場所に行く手段を設けるとその場所が付加価値化されることもある。

ではソーシャルメディアによる空間の付加価値化とはどういうことか。空間とコミュニケーションの連動というと、たとえばイベントの際の会場からのツイートのようなものが挙げられるだろう。イベントの模様を写真に撮ってアップしてもらうとか、ハッシュタグを決めて実況というのもその中に含まれる。イベントであればコミュニケーションが盛り上がるタイミングのコントロールも効きやすいから、販促にもつなげやすいかもしれない。

打ち合わせでこうした付加価値化の成功例として挙げていたのは、たとえば東京マラソンだった。35500人の枠に10倍を超える倍率で申し込みが殺到しているわけだが、一人10000円の参加費を取るとそれだけで35億円の収入になる。さらに、地上の交通規制に伴う都営地下鉄の利用者増加も考えると、都市型マラソンの新しいビジネスモデルとして、大阪や神戸がモデルにしているのもうなずける。

でもそれより重要なのは、そのコースとテレビ中継だ。「過去から現在、そして未来の東京を象徴するコース」とオフィシャルサイトに明記されている通り、このコース設計自体が東京という都市のひとつのプロモーション素材なのであり、それを中継するということはすなわちマラソンを通じて東京をPRするということでもある。

ちなみに浅草のような街だと、なぜか背景に着物を着て踊っている人(地元のなんとか保存会の人たちなんだろうか)が映り込んでいるわけだが、それがどうみても格闘ゲームのステージみたいな印象にしかならないことを差し引いても、外向けのPR効果を狙っていることは明らかだ。

さらに同イベントは、内向けの効果も持っていて、それはたとえば自治体施設のジムなんかで、東京マラソンのゼッケンをつけてトレーニングしてる高齢者なんかを見かけるときに感じる愛着、もっといえばシビック・プライドを高めているんだなあというところに表れている。そのまま東京オリンピック誘致までつながる大きな戦略なんだろうし、そういう点で東京の戦略は、ある部分では非常に巧妙なものだ(けど、そうなるはずだった、と言うべきかもしれない)。

さらにこうした愛着度の高い人も含め、参加者にとっては東京マラソンの当日が重要だ。スタート直前から「まもなくスタート!」といった写真付きのツイートが投稿され、重要なポイントではコスプレランナーが写真を撮る。東京マラソンという非日常空間を、ソーシャルメディアを使いながら目一杯楽しもうという参加者の気持ちが伝わってくる。電通がこうしたことを読み取ってか、市民マラソンのランナーをソーシャルメディアで結びつけるO2Oソリューションを発表したのも、なるほどなあという感じだ。

そう考えると、そういえば名古屋国際女子マラソンも「名古屋ウィメンズマラソン」として、2012年から市民マラソンになったし、空間を用いて何かしたいという欲望は、そこかしこにあふれているのだと思う。それをソーシャルで結びつけるとともに、イベントのリアルタイム性を利用した時間軸のコントロールでマーケティングに結びつけるような試みは、思ったような成果を上げているかどうかはともかく、同時多発的に起きているように思える。

かつて、空間を媒体=広告として用いるための手段と言えば、看板や、せいぜい巨大スクリーンくらいしかなかった。ソーシャルメディアを空間に埋め込む形で展開されている現在のトレンドは、それとはまた違った、空間を人々に「場所貸し」のような形で解放する一方、その対価をコミュニケーションによる空間のハッキングで媒体化することで調達するようなものなのかもしれない。

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