喧嘩に勝つな、勝負に勝て

一年の終わりにその年を振り返るというのは、そこが休みだからできることなんだろうけど、残念なことに今年は(今年も)ど年末のぎりぎりまで仕事なもんで、噛みしめるように振り返るわけにもいかない。2012年は主に研究活動で「どこに出しても恥ずかしくない激務イヤー」だったのだけど、今年はほぼ学務に追われた一年だった。

一応、1月から3月までは新刊『ウェブ社会のゆくえ』の執筆に集中していて、これはこれで心身ともに限界まですり減らしたり、夏にその新刊が出てからはプロモーションで取材やイベントにと慌ただしくしてたのだけど、それらはほとんど学務の隙間を縫ってのお仕事だった。

そこで何をしてたのかはおいおい書くとして、そうした組織の仕事に関わってあらためて感じるのは、その場限りの喧嘩にこだわることが、いつも意味があるとは限らないってことだ。巨大な組織となれば、内部の構成員もそれぞれの目標や思惑も多様で、それらを妥協のない形でひとつにまとめあげていくのはほぼ不可能に近い。そこでいままでの自分であれば、全体の動きとは独立に自分の好きなことをやるゲリラ戦でしのいでた。だけど立場として所属部署の利害を代表しながら、同時に全体に関わる意志決定を担おうとすると、それとは別の戦術が求められるようになる。

どうしても学者は理屈っぽい上に正しい解を求める職業だから、そういう場では「正しさ」をめぐる喧嘩にこだわりがちだ。でも本来は喧嘩に勝って自分の正しさを認めさせることが目標なのではない。むしろ目標達成のためには喧嘩に負けてでもトータルの勝負に勝とうとしなくちゃならない。当たり前のことなんだけど、自分の背中にいる人のためにそういう勝負を買って出て喧嘩に負けてあげるなんて大人って大変だなあと痛感した。

ただ他方で、自分のライフステージが変わることで生じる目標設定の変化、それがもたらすアイデンティティ・クライシスを、ある程度のしなやかさでもって乗り越える経験になったのも確か。というよりここ数年の自分の中の危機は、結局のところそうした目標の変化にどう対応するかということだったのだと思う。もう歳だけは大人だしね。

そうやってまあ中間管理職の悲哀みたいなやつを味わってる間にも世間は先に進んでいて、その点ではアウトプットは多いけどインプットはほとんどない一年だったので、仕事では充実感も達成感もいまひとつだった。論壇で注目の論客、なんてのもほとんど名前すら知らないし、対談本も目立ってたみたいだけど、ちょっと食指が動かなかった。あとプライベートでは春以降、とにかく時間を上手に使いながら料理をしないといけなかったこともあって、バリエーションも増えたし多少は包丁の使い方も巧くなったはずだと思ってる。今年の美味しかった料理を挙げたらベスト7は間違いなく自分の作ったもので埋まる。

というわけで今年も恒例のあれです、七味五悦三会。大晦日の除夜の鐘が鳴っている間に、その年に食べ美味しいものを七つ、楽しかった出来事を五つ、出会えてよかった人を三人挙げることができたら、その年はいい年だったねと言って新年を迎えるという、江戸の風習なのだそうです。年の暮れくらいいいことを数えて終わりたい、そんで悲しいことは、年が明けてからまた心の中に折り畳んで歩き出せばいい、そんな粋なやつだと思って毎年やってるんで、よければあなたも是非。

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