俺たちはまだもっと笑える

雑記

20150417

旅というものが嫌いだ。観光地で見たいものなんかないし、必然的にすべて外食になるからお腹は張りっぱなしになるし、どうしたって歩きづめだ。荷物は重い上に減ることはない。旅先で「やらなくちゃいけないこと」のレールに乗せられるくらいなら、一日中ぼーっと海を見ていた方がマシだ。

もちろん、そういう旅の仕方があることも知っている。でも、それはたいてい、自分の家でもできることだ。なにせ家は快適だ。欲しいものはすべて手元にある。歌いたくなったらギターかピアノを弾けばいいし、キッチンで自分の好きなものを料理できる。最近は研究室にすら楽器を持ち込んでいるので、職場にいてもその快適さは変わらない。

だから僕にとって「旅に出る」という行為は、わざわざ不便さを経験しにいくことであり、またそこに意味を見出すべきものなのだ。足りないものがあれば誰かに聞いて手配しなければいけないし、次にどう行動すべきかを考えておかなくちゃならない。そしてなにより、僕たちはいつか帰るつもりで旅に出なくちゃならない。もう大人だもの。

39歳になったという年齢のことだけではない。「考える」ということの問題だ。

10歳の誕生日、自分の年齢が二桁になったことに感慨を覚えて、よし、これから毎年、誕生日が来るたびに「10年前の自分」がどんなだったか思い出すことにしよう、と決めた。どんな子どもだと思うかもしれないけれど、むしろ僕からすれば子どもというものはそのくらい賢いのだ。そんなわけで10代の10年間、僕は毎年「10年前の自分」から現在までの距離を、誕生日のたびに振り返っていたのだった。

いまに思えばそれは、成長に向けたポジティブな感情というより、どんどん大人にさせられていくことに対する不安や恐怖の裏返しだったのかもしれない。ようやく前を向いて考えられるようになったのは20歳の頃か。10年間、10年前を振り返る日だった誕生日に、もうひとつ「10年後の自分に手紙を書く」というタスクを加えた。聞くだけでイタいけど、残念ながら29歳の自分からの手紙なるものが、なんと今年まで有効なのである。

その中身はともかくとして、その過去の亡霊も、いったん今年で打ち止めだ。30歳になるときに、過去の自分を振り返ることも、未来の自分に手紙を書くこともやめたからだ。

言い換えれば30代とは自分にとって、「できる限り何も考えない」ことを目指して努力してきた時間だったのだ。過去の自分を乗り越えることや、未来に向けて着々と努力するのではなく、ただただ飛んでくる球を打ち返しながら、その意味や、それがどんな未来につながるのかは考えない。それは誰に対しても何の約束もしないということだし、できないということだった。

ところが気づけば、そうやって打ち返してきた日々の中に「未来への約束」が溢れるようになっている。学生をゼミに受け入れると決めれば、そこから数年先の未来までを預かることになるし、そもそもひとつのプロジェクトが最低でも一年はかかる。いまやっている新事業に関しては、当初から3年は自分が面倒を見ると宣言して始めたものだ。そして当たり前だけど、どの仕事も、それぞれのタイムリミットまでに結果を出さなくちゃならない。しかも自分一人で結果を出すわけじゃないから、巻き込んでいく人たちひとりひとりに何かを「約束」したり、されたりすることになる。

「わたしが大人になるまで、ずっと一緒にいてね?」と、小さな娘に言われることが増えた。その言葉は僕を、一気に20年後の未来に向けた約束へと導いていく。その間に僕はたくさんの人と約束を交わし、義務を果たし、不自由への旅に出ることを覚悟しなくちゃならない。逆に言えば、今日明日何を言われたからといって、そんなことに構ってはいられない。長い時間がかかるのだから、そこに集中しないといけないのだ。

10代の頃は、これさえ終われば死ねるというプロジェクトを探してがむしゃらに動いていた。20代には、できなかったことの数を数えてはくよくよしてばかりだった。そして、できてもできなくてもとにかく手を動かすという30代が、残り一年になった。人生の蝋燭は短くなるのに、動かすべき事柄の期間は伸びる。できることの数は、必然的に減っていく。その代わりに誰かの選択肢や可能性や未来を増やすことができるように、あと一年、とにかく手を動かすつもり。

やっぱあんたがいなくなるなんて考えたくもない
このまま気づかないふりで頑張れなくもない
本当かどうか定かではないし
オレはバカではないし奏でたい
(GOOD MUSIC)1年365日生きてる間中
まだ降ろせないぜ肩の荷を ビート鳴り止ませない片時も
分かりあえなかった日 バカになれなかった日 涙流した日
毎日をリズムが支える オレ達はまだもっと笑える
流れる音楽に永久に愛を注げば差し込むトワイライト
(KICK THE CAN CREW「GOOD MUSIC」)

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