コンテンツで振り返る2015年

雑記

コンテンツという言い方が妥当なのかは分からない。ただ、音楽にせよ映像にせよゲームにせよ、個別にいろいろと論じるほどの余裕もないので、今年はとりあえず大まとめにして「コンテンツ」という形で、見たもの聴いたもの読んだものを振り返ることにしたい。というのも、できる限りインプットを増やそうと思って頑張った結果、それらの間に共通の関心やテーマが浮かんできたからなのだけれど、もちろん個別にも楽しめたものばかりだったので、全体としては充実した年だったな、と思う。

1.プリンセスの氾濫

あちこちで「プリンセス」モチーフが溢れかえっていたのが今年の最大の注目点。きっかけは昨年の『アナ雪』だろうけれど、既に2011年くらいには「Girlie-Girl Culture」なる言葉も生まれ、『シンデレラに食べられた娘(Cinderella Ate My Daughter)』なんて本も出ていたそうなので、2010年代のトレンドと言っていいだろう。日本だと『Go!プリンセスプリキュア』やハロウィンのコスプレなんかでプリンセスモチーフが流行したし、『シンデレラ』の映画化なんかもあった。女子向け自己啓発本でも「プリンセスになる」ことを目指すというのが結構出ていて、最初は王族って気持ちの持ちようとかでなれるものなんですかって思ってたのだけど、やはりここで挙げるべきなのは『アイドルマスター シンデレラガールズ』になるはずだ。

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いや、個人的には大きな思い入れはない。9月にスタートしたデレステ(『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』)も、ラブライブほどはやりこんでいないし。ただ、「プリンセス」と「アイドル」がひとつのイメージで合流するのが現代なのだなとは思う。さらに言うなら、そこでアイドルは、「隣の女の子」でも「類まれなる努力家」でもあるのだけど、同時に「輝ける存在」でもある。おそらくこの「輝く」「煌めく」というのが『Star!!』の歌詞のモチーフでもあるし、気づけば政策の文言にもなっている、ある種の時代的なワードなのだ。

輝くとはどういうことなのか、なぜ輝きたいと思う人や、それにイラッとする人がいるのか、そうしたことはこれから考えればいいのだけど、どうやっても自分ごとではないだけに、今年はひたすら「プリンセス」を追いかけていた一年だった。

2.サブスクリプションが変えた音楽

もうひとつ、今年のコンテンツを語るならサブスクリプション(定額制)サービスの普及は外せないトピックだ。音楽で言えばLINE MusicやApple Music、映像でもHuluに続いてNetflixが上陸するなど、国内向けのサービスが充実してきた。自分の担当している演習でもそれらのサービス間の分析をしていたのだけど、気づけば9月くらいに公開予定だったエントリを途中で放置してお蔵入りにしてしまった。Apple MusicのAndoroid展開など、最新の状況に合わせたものを来年にはリリースしたいところ。

では聴いていた楽曲としてはどうか。ビジネスモデル上の問題から、聴き放題サービスではどうしても「団塊ジュニア世代向けの懐かしい楽曲」か「若手アーティストの新曲」が目立つことになる。前者に関係するものとしては、Ms.OOJAのカバーアルバム『THE HITS』をよく聴いていた。過去に出したカバー曲の中でも「FIRST LOVE」(宇多田ヒカル)や「月光」(鬼束ちひろ)など、本気でカバーしたものの存在感はすごいなあと思った彼女だけど、今回も「瞳はダイアモンド」のような、カバーとしては珍しい楽曲があってうまく入り込めた。

若手で言うと、Shiggy Jr.やSHISHAMOといった若手が安定的な楽曲をリリースする一方で、今後はどうなるのかな、と思わないでもなかった。「熱帯夜」はとても好きな楽曲だったけれど。

その意味ではKANA-BOONの『TIME』における頭ひとつ出た感は嬉しかったし、関西インディーの雄で、彼らと一緒にスプリット・シングルをリリースしたシナリオアート『Happy Umbrella』も、たくさんスターのつくアルバムだった。04 Limited Sazabysの『CAVU』も、一時期無限ループするくらい聴いていて、今年はバンドがホントに楽しかったなと思う。

そんな中で2組取り上げたいのが、BLUE ENCOUNTときのこ帝国だ。BLUE ENCOUNTのメジャーデビュー作『≒』は、「もっと光を」のようなストレートなロックもさることながら、「KICKASS」「DAY×DAY」といったラウドっぽい楽曲のセンスが光る。今年『35xxxv』をリリース後、本格的に世界展開していったONE OK ROCKの後に続くバンドになってくれたらいいなと思う。

きのこ帝国については、サブスクリプションがなかったらここまでディープに聴きこまなかったかもしれない。通信料をセーブするためにダウンロードして聴くのが一般的なサブスクリプションサービスでは、プレイリストやアルバムといったまとまりで音楽を聴くことが多くなる。インディー時代の全アルバムを聴きこんだ後で、メジャー1stの『猫とアレルギー』がリリースされたというタイミングもよかった。

もうひとつ、サブスクリプションゆえに全曲聴きこんだのでいうと、今年は圧倒的にハルカトミユキだった。「肯定する」をラジオでかけられなかったのが悔やまれるところ。でも、来年春まで新曲リリースが続くそうなので、このままエネルギッシュに伸びていって欲しい。言葉へのこだわりという意味では、ぼくのりりっくぼうよみも今後が期待できると思うけれど、そこは来年にとっておきたいところ。

あとは、山根万理奈『愛と妄想、25歳。』かな。ラジオでも流したけど、「時のまにまに」は、移動中の新幹線なんかで聴いているとただ泣けてしまう名曲だった。

秋以降、サブスクリプションの楽曲を掘りまくったせいで去年以前のものもたくさん耳にした一方、たとえば邦楽に偏ってしまったり、サブスクリプションに出していない新曲のチェックが遅れたりといったところもあったのだけど、来年はそのへんも拾えたらいいなと思う。

3.甦るセカイ系

今年はゲームも、ソシャゲを中心にだいぶプレイした。年の終わりになってWii Uがやってきたので『スプラトゥーン』や『スーパーマリオメイカー』をプレイしてはいるけれど、同じオンラインが前提のものでも、ソシャゲから次の時代に移るなあという印象。ただ、こちらも本格的な分析は来年以降になるだろうか。

ソシャゲで言うと、すぐプレイしなくなったものも含めて10数本だろうか。年の頭にラブライブをゼロから再開して、その後『SHOW BY ROCK!!』、秋以降はデレステも加わって音ゲーが中心だったと思う。一方で『消滅都市』も安定的にプレイしていたので、そういう意味ではプレイ時間は細切れであるものの、ずっとゲームしてた一年間だった。

ただ、やっぱり衝撃的だったのはグリモア(『グリモア〜私立グリモワール魔法学園』)だろう。始めたのがデレステと同じ時期なので9月くらいだから、リリースから1年くらいたっての参戦。もちろん、毎月最終金曜日にソフマップに行列を作っていた時代とはわけが違うので、新作を逐一チェックするということもないから遅いとか早いとかではないのだけど、この作品の性質を考える上で、この情報は重要なのだ。というのも、一般的なソシャゲと比しても、グリモアのストーリー性は高く、悪く言えばそれだけ新規参入が困難だからだ。

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舞台は「ミスティック」と呼ばれる霧の魔物が人類を脅かす世界。圧倒的な力を持つ魔物の前に劣勢気味の人類の数少ない希望が「魔法」と呼ばれる能力を使える魔法使い。魔法使いたちは人生のある時点でその能力に覚醒するのだけど、魔物との戦いの最前線に配置される前に、18歳になるまでの期間、研修を受けて過ごす。それが「魔法学園」だ。

主人公は、覚醒する魔法使いのほとんどが女性であるなか、数少ない男性の魔法使いとして覚醒し、転校生として学園にやってきた。しかも、個人としての魔法の能力はほとんどないにも関わらず、無限に近い魔力を持ち、それを他の魔法使いに受け渡せるという特殊能力を持っている。これがいわば「ハーレム展開」を必然化する設定になっているわけだ。

これだけなら、魔物を倒して女の子たちと仲良くなって、というルーチンを繰り返せばいいはずなのだけど、本作が秀逸なのはその「世界の謎」が、次第に明かされていく点だ。つまり、後からスタートしたユーザーにとっては、イベントなんかで登場する固有名や人物なんかが、既に開催されたイベントやミニストーリーを下敷きにしたものになるので、入り込みづらいものになる。ユーザー数を拡大することが目標のソシャゲとしては、ちょっと意外過ぎるやり方だろう。

ところがこのストーリーが面白いのだ。設定だけで言っても、魔法使いは魔物と戦う能力を持つ一方で、人類からは奇異の目で見られ、時には魔物を信奉する集団から敵視されている。魔法についても、科学(魔導科学)としての研究が進む中で人体実験も辞さない組織があったり、魔導科学を応用した兵器開発で急伸する企業があったりと、一筋縄ではいかない扱いだ。さらに、魔物自体への研究も進んでいて、「それら」に知性があるのか、なぜ人が作った物語に登場するモンスターの形を取るのかなど、謎が多い。こうした「世界の謎」が、登場するキャラクターそれぞれの関わっている集団や組織の利害と絡み合いながら、それぞれの思惑に影響を与えている。

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おそらく、ここまでの厚みのあるストーリーを映画やアニメシリーズで描ききるのは至難の業だし、ライトノベルでやろうにもキャラクターの書き分けが難しくなるだろう。幸いにも、「ストーリーチケット」というアイテムを使えば過去のイベントのストーリーパートを読むことができるので、お話の後追いそのものは難しくない。ただ、2014〜15年にここまで王道のセカイ系の作品が展開されているということが、そもそもすごいと思う。それと関係なくキャラが推せるのがいい。小鳥遊自由のためなら課金できる。

セカイ系再び、という意味では『Chaos; Head』の続編である『Chaos; Child』も素晴らしかった。以前にも論じたことのある作品だけに、震災以後、これがどういう風に日本を、渋谷を描くのかというのは、自分にとっても大きな関心事だったのだけれど、十分過ぎるクオリティだと思う。思えば、「ニュージェネ」「渋谷地震」の後、実際に東急文化会館はヒカリエになり、東急プラザも取り壊された。そうやって変化していく街のある時点にフォーカスすることは、結果的にその瞬間の都市を描いてしまうことになるのだと思う。

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4.定番のお勉強

コンテンツとくくるのは憚られるけれど、今年は昨年に続いて放送大学に随分とお世話になった。特に飯尾潤先生の「現代日本の政治」は、具体的な政策や政治過程に疎い自分にはすごく勉強になるものだった。時間のない中、毎回1.3倍速くらいで再生しながらリアルタイムでノートを取るという苦行に挑戦したせいで、タイピングもめちゃくちゃ早くなったと思う。

それも含め、今年は学部で進めている「ピア・エデュケーション」の取り組みのために政治・経済をじっくり勉強した。そんなわけでこの分野の教科書を何冊も買ったのだけれど、特に村尾秀俊『「なぜ?」がわかる政治・経済』の出来は出色だった。たぶん、現時点で大人が復習するには最適な教科書だと思う。とあるところにも書いたのだけれど、なにせ現代の政経は僕ら昭和の世代が現役だった頃とは、前提も記述もまったく異なっている。日々学び続けないと過去の常識で物事を判断してしまうことを教えられた一年だった。

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逆に、定番や古典に立ち返ることの大事さという点では、今年度で勤め先を退職される盛山和夫御大の大学院ゼミに参加した経験が大きかった。思えば僕の学会デビューの部会でトリだったのが盛山先生だったわけだけれど、気づけばその方と同僚になっていたのに全然お勉強させてもらってない、ということで無理を言って参加させてもらった。というか結局のところ院生は誰もいなかったので、教員どうしの研究会だったんじゃないかあれ、というのはちょっとしたお茶目だ。

盛山ゼミでは、主として福祉国家論や社会保障論といった、修士以来研究を怠っていた分野の議論をしながら、御大のクリティカルなツッコミを受けてその場でデータを探すという緊張感のあるもので、そこから翻る形で社会学理論ができることは何か、という議論にまで到達したのが最大の財産だと思う。そんなこんなで、今年はホントに勉強させられたなあという感想。

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来年以降の学務を考えても、ここまでのんびりコンテンツを消費したり勉強したりできる年はしばらくやってこないかな、という気もするけど、アンテナの張り方は確実にアップデートされたし、来年も楽しいものにたくさん触れられるといいな。

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