イメージの中の「大学」

なかなか衝撃的な動画だと思った、LINEの新入大学生向けプロモーションビデオ。

昨年ヤバTを引用しながら新入生への式辞を述べた学部長先生が見ていたらまっ先に取り上げたんじゃないかと思う(ちなみに今年は『セトウツミ』ネタだった)くらいの出来栄え。主演はバブリーダンスで世を沸かせた登美丘高校ダンス部元キャプテンで、サウンドもどちらかというと90年代前半風味。「大学はテーマパーク」と言われたバブル末期のチャラ大学生と現代の通信環境をリンクさせて表現しようという意図は明らかだ。

もちろん、大学教員としてはまったく歓迎できない内容だし、YouTubeのコメントも、ダンスを褒める以外は批判的なものが目立つ。その点についてはエントリの後半で補足するとして、ただプロモーションとして考えた時に、LINEが提案しようとしている「シーン」はよく理解できる。入学前からグループをつくり、彼氏に振られても頼れる親密な関係を築き、就活でも情報交換したり励まし合ったりする。いわゆる定型的な大学のあり方が失われ、大学生活が不透明になったいまだからこそ、「コミュニケーションと人脈しか信じられない」という感覚が、その背後にあるのだろう。

間違ってはならない。このビデオでは、別に「大学」がどのような場所であるかを表現してはいない。歌詞にも「般教に二外 授業飲み会単位」以外に大学を示す単語は出てこない。なお、「一般教養科目」の略称である「パンキョー」は大学設置基準大綱化が行われた1991年ごろに廃止されているから、それも含めてこの歌では、実在する大学、現実の大学生活については描かれていないと見るべきだろう。あくまで「大学生っぽいイメージ」の世界で、LINEを使ったコミュニケーションをサバイブの糧にしようというメッセージが歌われているだけなのだ。当然、「大学ライフは情報戦」などのサビのフレーズを高校ライフに変えても専門学校ライフに変えても通用する。

一方で、そのイメージが現実を作り変えてしまうことだって考えられる。大学に入れば「ダルい授業」や「単位落とした」といった現実に直面するのだとしても、そうしたものを大学生活の「脇役」とみなし、友人との出会いやコミュニケーションこそが大学の「主役」だと考えれば、そこで遊んでいようと勉強していようとあまり関係がない。逆に言えば、友人と協力して発表資料を作った「思い出」の方が、発表の「内容」よりも強い印象を残すものになるケースを想定すれば、むしろ課題に一生懸命な学生こそが、こうした価値観に近づくことだってありうる。

大学時代に一番力を入れたこと(学部長によれば「ガクチカ」)を、就活の場面では頻繁に問われるのだと思う。一位を取ったなどの明確な結果を残せない人がほとんどである以上、この質問は「自分から見て一番力を入れたことはなにか」という主観を問うものにしかならない。そして主観の世界ではそれは「思い出の深さ」で示されるものでしかなく、結果、「友人たちとぶつかりながらも協力して発表を作り上げることができました」といったエピソードに落ちていかざるを得ない。学生たちの話を聞くにつけ、こうした「人を動かすときに苦労して、それを乗り越えたエピソード」というのは、ひとつの定番になっているようだ。

では、こうした「コミュニケーション」を軸にした大学生活を選ぶのは、どのくらい正しいものなのだろう。リクルートキャリア調べによるデータでは、就活において学生がアピールする「バイト、サークル」といった項目は、企業にとってほとんど重視されない。重視されるのは人柄や熱意だが、大学に関係するところでいうと「基礎学力」や「大学で身につけた専門性」ということになる。採用に際して授業の成績を提出させることも増えているし、履修履歴を活用する企業対策で、大学1年生のときからアプリで学習計画を立てさせるといった取り組みも広がっている。大学はどんどん(文系であっても)「勉強する場所」になりつつある。

もちろんそこでの「勉強」も、真面目に先生の話を聞くというものだけでなく、グループワークなどの協働作業、アクティブ・ラーニングなどの取り組みを含むものになっているから、コミュニケーション要素だって重要ではある。でもそこで求められるコミュニケーション能力とは、友人と気軽な会話で話を合わせる力ではなく、自分の意見を、相手に伝わるように表明することであり、相手から自分にはない意見を引き出す力でもある。

よく学生に「思い出と友だちと卒業証書しか持たずに卒業するなんて勿体ない」と言っている。勤め先では、入学式・卒業式の際に正門で写真を撮影する人の行列ができるのだけど、できることなら卒業式では、写真や動画には残せないものをたくさん持って出ていってもらいたいと思う。友だちは疎遠になることもあるし、友だちとの思い出も、振り返りたくないものになるかもしれない。けれど自分が身につけたスキルや知識や経験は、他の誰にも奪うことはできない。頑張って維持しないとなくなるもののために時間を使うのか、誰にも奪えない自分だけのものを手に入れるために時間を使うのか。それを自分の意志だけで選べるのが、大学時代なんだってことは、覚えていて欲しいと思ったのだった。

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