グリモアについてネタバレ含みで考察する

雑記

どうやら『グリモア(私立グリモワール魔法学園)』のテレビコマーシャルが始まるらしい。昨年末のブログでも取り上げたとおり、僕はこのゲームというか作品をとても気に入っていて、色んな人の前で「グリモアはいいぞ」という話をしているのだけど、実はあまりユーザーが増えることを期待していない。というのも、これも以前に書いたとおりこの作品はストーリーの部分がキモであり、以前のイベントの出来事などを知らずに始めてもゲーム性だけで楽しめる、というものじゃないからだ。

そんなわけで、誰に頼まれたわけでもないけれど「グリモア」について少しだけストーリー解説を含めた世界観の考察をしてみたいと思う。一部について盛大にネタバレすることになるけれど、知らないことには始まらないだけでなく、イベントをクリアしていなくても出てくる会話などで言及されるものも多いので、これはもう仕方ないかなということで。

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人類を脅かす「霧の魔物」

まずは簡単な世界観の解説から。舞台は「霧の魔物」「ミスティック」と呼ばれる謎の存在が人類と敵対している世界。霧の魔物はその名の通り「霧」と呼ばれる物質が実体化し、人間を襲うようになったもの。この世界においては近世あたり(300年前)から登場するようになったとされる。霧の魔物には様々な特徴があるのだが、どこから来て、なぜ人間を襲うのかといった点については分かっていない。また霧の魔物を倒しても元の霧に返るだけであり、一時的に霧の濃度は下がる(「霧を払う」)が、霧自体は別の場所に移動し、濃度が高くなると再び実体化する。そのため霧に対する根本的な対策は見つかっていない。

また霧は実体化して人間を襲う以外にも様々な問題を引き起こす。魔物は人間以外は襲わないのだが、霧に覆われた地域では植物も枯れてしまうので、その後人が住める土地にするためには長い除染作業が必要になる。さらに霧は人間の体内に入り込むことでも悪影響を及ぼし、その人間を魔物化してしまう。結果的に人類のほとんどは魔物に占拠された地域から撤退し、限られた地域に住まうほかなくなっている。水を嫌うという魔物の性質から、オーストラリアのような場所では魔物の影響がないものの、南半球のほとんどは魔物の支配地域となっており、また魔物は誕生してから経過した時間に応じて巨大化・強化するという性質があるため、これらの地域では人間の手ではどうにもならない状態になっていることが予想される。

唯一の希望である「魔法使い」

魔物に対する有効な手段はほとんどなかったのだが、唯一の希望が「魔法使い」と呼ばれる人びとの用いる「魔法」だ。魔法使いは魔物の誕生と同時に世界各地で「覚醒」し、現代に至るまで不定期に覚醒者が現れている。その多くは女性であり、また思春期前後に魔法使いに覚醒する。こうした特徴は僕たちの生きる現実の世界においては「預言者」や「シャーマン」などにも見られるものだが、現実においてもそうであったように、特殊能力を有した魔法使いに覚醒することは、彼女たちの人生を大きく変えてしまう。

迫害や普通の人類との対立といった歴史を経て、ゲーム内の現代では魔法使いは「魔法学園」に所属し、そこで18歳まで魔法や戦闘の訓練を受けることになっている。とはいえ現実には魔法学園は魔法使いに覚醒したばかりの少女たちにとってのアジールであり、短命に終わることも珍しくない魔法使いたちの、短い青春の舞台となっている。

なぜ魔法学園のような養成機関が成立しているのかというと、魔法の仕組みが科学的に解明され、魔法使いでないものにも使える兵器に応用されたことが大きい。魔法を科学的に解明し、応用する研究は「魔導科学」と呼ばれ、実際に最前線で魔物と戦う国連軍や国軍は、その成果を用いて魔法使いと共同作戦を行っている。確かに魔物に対する効果という点では明らかに魔法のほうが優っているのだが、こうした軍事力を背景に18歳以下の魔法使いを教育機関で実戦向けに鍛えることが可能になっているのだ。

ひとくちに魔法といっても、決まった形式があるわけではない。あるものは水や火、電撃といった形で魔法を発現させるが、自分の肉体を強化し、魔物に対する直接攻撃を行う場合もあれば、偵察や捕縛といった能力に特化した魔法を使うものもいる。共通しているのは、魔法を使うたびにその魔法使いが有している「魔力」を消費するということだ。この辺りにも細かな設定があるのだが、ざっくりと説明するならば、魔法使いは魔力を消費して魔法を発動させ、魔力が切れたら動けなくなってしまうのだ。魔力は休息することで回復するが、戦闘の場での魔力切れは即死を意味するので、強力な魔法を使える場合でも、その威力を抑制しなければならない。

さて、こうした限界を抱えつつも人類の希望となっている魔法使いを育成する学園に「転校生」として主人公はやってくる。彼の特徴は、珍しい男の魔法使いであることと、ろくに魔法が使えないにもかかわらず、無尽蔵に近い魔力を持ち、しかもそれを受け渡すことができるという点にある。この「受け渡し」は世界でも主人公にしかできないもので、さらに魔法使いのボトルネックであった魔力切れを気にしなくていいという点で、戦況を劇的に変化させる可能性が高い。それだけに学園は主人公を学園内に匿うようにして保護しつつ、学園内の魔法使いたちと協力して魔物討伐の訓練(クエスト)に当たらせている。

これだけの説明でも、この世界観が非常に秀逸なセカイ系のフォーマットになっていることが分かるだろう。正体不明の敵に対してわけもわからず戦わなければならないという逼迫した状況と、主人公がクラスメイトや先輩・後輩たちと学園生活を送るというほのぼのとした日常が併存し、彼女たちの助けになることがそのまま世界を救うというわけだ。さらに60人以上もキャラクターがいるにもかかわらず、それぞれ魔法使いとしての個性や戦う理由が異なっていることもあってこのキャラがメインヒロインという形にもならない。

加えてセカイ系のもうひとつのフォーマットとも言える「世界の謎」と「自分の謎」についても、ストーリー上の興味深い構造がある。世界の謎は文字通り「魔物の正体」なのだが、ストーリーを進めていくにつれ、ヒロインたちが抱える「自分の謎」と「世界の謎」がリンクしてくる。幾人かのヒロインはその出自に秘密を抱えていて、それが明かされる中で、この世界の謎も少しずつ明らかになる。このあたりも、主人公の内面の謎を掘り下げることでストーリーが破綻していくというセカイ系の特徴をうまく回避する、ソシャゲならではの工夫だと言えるだろう。

「霧」を巡る人類と世界の状況

また、この作品の世界観を「現代のセカイ系」と呼びうる理由のひとつに、「霧」を巡って人類が必ずしも一枚岩ではないという政治的な状況が描かれていることがある。魔法使いは世界中で覚醒するのだが、日本を含む世界6ケ所、7カ国の魔法学園で養成され、学生の交流も盛んであるため、非常にグローバルな活動を行っている。一方で人類の多くはその国の軍隊の保護下にあり、また魔物の状況もあるため国際的な流動性はそれほど高くないものと思われる。結果的に「霧」をめぐっては、それが世界的な課題であるにもかかわらず、国益の対立によって足並みが揃わないという事態が発生する。

それが顕著に現れたのが、ゲーム内で描かれた北海道奪還作戦の際だ。人里にはあまり出現しない魔物が、世界規模で人類の居住地に大発生することを「大規模侵攻」と呼ぶのだが、その第6次侵攻において魔物の手に落ちた北海道を取り返すためのこの作戦は、様々な利害調整の結果として可能になった。というのも、「北海道の霧を払って魔物から奪還する」ということは、その霧がロシア、中国に流れて実体化するリスクを伴うからだ。

グローバルな視点から霧に対処する魔法使いと、各国の利害に影響を受ける国軍との目標のズレや、それがもたらす国際関係のありようは、現実にも二酸化炭素排出量をめぐる問題などで目のあたりにするところだ。さらに言うなら、従来のセカイ系においては単に謎だった「人類の敵」が「霧」という、微妙な存在になっていることも重要だ。大地を汚染し、目には見えないが体内に入ると生命に関わる霧。実体化し、人類に牙をむくと破壊的な影響を及ぼす魔物。こうした存在が「敵」と名指されることそのものが、東日本大震災以後の僕たちの生きる社会を反映している。

しかも人類の魔物に対する考え方も一様ではない。宗教的な理由から魔物と敵対する教団もあれば、魔物は霧に飲み込まれた死者が苦しんでいる姿だと考える国もある。人間と魔法使いの対立の歴史を背景に、魔物は某国政府によって人為的に生み出された兵器であり、魔法使いも同様だとする人類選民思想を持つ「ノーマルマンズ」という集団や、逆に霧は人類の進化を促す集団であるにもかかわらず、魔法使いが魔物に仇なすせいで進化が阻害されていると考える「霧の守り手」などの集団がおり、一部は魔法使いに対するテロ活動を行っている。このあたりも現実の世界の環境活動に置き換えて考えると、リアリティのある対立だ。

そこまで過激でなくとも、魔法使いは人類にとってアンビバレントな存在なのだ。魔法を使えない人びとにとって、魔物も魔法も得体の知れない力を持つもの。主人公の通う「私立グリモワール魔法学園」では、近隣市外の人びととの関係は相対的に良好であるものの、それでも魔法使いが調理した料理を食べたがらない人はいるし、学園生もそのことを承知のうえで気を使っている。こうした微妙な差別意識は、たとえばキャラクターのひとりが手伝いで夜店の屋台を任されたときなどに、「あっ、でも…」といった形で露呈する。あからさまな排除ではなく、差別意識こそが差別を実体化させるという面を描いたことも含め、これは21世紀に生きる僕たちの現実そのものなのだなと思う。

セカイ系において「きみとぼくの終わらない日常」は、まさにそうした政治性から切り離されていることを意味していた。2011年以後の僕たちは、普通の日常生活を送ろうという態度や決意そのものがもはや政治的であるような世界を生きている。「自分の謎」が世界とリンクし始めたとき、そこにはかつてとは異なる意味での困難が待ち受けている。

世界を取り巻く大きな謎

というのも、この作品における「世界の謎」は、何重にも渡る仕掛けが施されているからだ。「霧」はどこから来るのか? この点についてこれまでのストーリーで明らかになっているのは、地球上には特に霧の濃い場所が数カ所あり、そこには現実の世界と微妙に異なる歴史をもつ「裏世界」へと通じるゲートが存在しているということだ。裏世界と表世界では、登場人物は似通っているもののいくつかの点で決定的な違いがあり、それが各キャラクターの「自分の謎」を深めるものにもなっている。あるものは肉親がテロリストと通じたせいで迫害され、またあるものはテロリストになってしまっていたりする。

何よりも大きな違いは、裏世界においては魔導科学が発達しておらず、表世界のように国軍が魔導兵器を用いて魔物と戦う能力をほとんど持っていないということだ。これは、本当に人類の希望が魔法使いしかいないことを意味する。さらに裏世界には主人公が存在していないため、少女たちは学園において青春を謳歌することを許されず、次々と実戦に駆り出されては負傷し、また命を落としていく。表世界においては主人公が転校してきた年の10月末に発生した「第7次侵攻」という大規模侵攻で、多くの学園生が戦死することになった。

さらにそこから1年たたずに起きた「第8次侵攻」によってグリモアは壊滅。人類は完全に魔物に対抗する手段を失い、細々と生き延びるも絶滅寸前にまで陥る、というのが裏世界の歴史だ。歴史といっても、そのストーリーも裏世界のキャラクターたちによって語られるものであり、その様は悲惨としか言いようがない。そこにあるのは『エヴァ』『マブラヴ』から『進撃の巨人』に至るまで繰り返された「勝ち目のない敵に一方的に蹂躙される鬱展開」そのものであり、本作品のセカイ系的な側面を際立たせるものになっている。

ただし重要なのは、これがあくまで主人公の生きる「表世界」のパラレルワールドであり、表世界の歴史とは異なっているということだ。表世界においては、魔導科学のブレイクスルーが起きて魔法使いでなくとも魔物に対抗する力を持っているため、学園生はいきなり最前線に送られたりしない。また転校生の魔力受け渡し能力と、入学後に身につけた指揮官としての才覚によって、第7次侵攻においては一人の死者も出ることはなかった。テロリストに籠絡された学園生も表世界では魔法使いの仲間でありクラスメイト。ほとんどの歴史において、表世界では裏世界より「いいこと」が起きているのだ。

そしてセカイは停止する

ただ、不安な点もある。それはヒロインの一人である南智花が見る「裏世界の夢」だ。彼女は自身が戦死する瞬間を繰り返し夢に見ており、そのことを気に病んでいる。そして裏世界の調査を続けるうちに明らかになったのは、それが第8次侵攻においてグリモアが壊滅した際の状況に酷似しているということだ。異なる歴史をもち、行き来はできるものの独立しているはずの表と裏の世界が、夢という形でリンクするのはなぜなのか? そしてどうして智花は自分の死の夢を見るのか? といった形で謎はますます深まる。

さらにもうひとつ、世界に重大な出来事が訪れる。学園は学校であるため、18歳になったら卒業という形で出ていかなければならない。多くの学園生は卒業後、国軍に配属されることになるのだが、いずれにせよ学園生ではなくなる。転校生が転校してきた段階で18歳だった学園生も、春には卒業するはずだった。

しかしながら4月1日、前の日に卒業したはずの学園生たちが普通に登校してくる。関係者たちは一部を除いて、先輩たちの卒業は次の春だったはずだ、と口をそろえる。要するに世界が、4月1日から3月31日を経て、また前年の4月1日に巻き戻ってしまったのだ。正確にはいくつかのイベントの記憶などは残っているので「時間が先に進まなくなった」のだが、世界を改変するほどの出来事は、たとえ魔法の力だとしてもそう簡単ではない。なぜ世界の時間は停止してしまったのか?

期待される今後の展開

ここまでが、本作品がリリースされて約1年ほどの間に起きたイベントで明らかになったことの一部だ。そこからゲームではさらに半年以上たっており、いくつもの事実が明らかになっている。以下は、予測も交えて本作品の世界観を総括的に論じてみよう。

おそらくは、「裏世界」と呼ばれている世界の方が現実の世界であり、「表世界」は、裏世界で死にゆく智花が最後に自分の魔力で作り上げたパラレルワールドなのだと思う。そこではご都合主義的に不幸が回避され、また「転校生(主人公)」というワイルドカードも存在している。もちろんこの解釈では、裏世界と表世界を行き来している幾人かの行動について辻褄があわないし、未解決の謎も多いが、「世界全体の時間をループさせるほどの魔力は智花にない」という前提が正しいならば、「表世界そのものが智花の創造物である」という解釈しかあり得ないはずだ。

だとするならば本作品は、まさにセカイ系的なフォーマットを用いつつ、それを現代の社会構造に取り込んだ新たな作品世界を提示したものだと言えるだろう。セカイ系によく見られた批判である「世界の状況が自分の青春に短絡している」という言い分は、まさに緊迫しつつある世界においてモラトリアムへ逃げ込むことへの批判だった。そのこと自体は当時の時代状況を含めて立体的に論じるべきだとは思うけれども、やはり「厳しい時代だからこそモラトリアムのセカイを生きる」ということの必然性はあったし、それがたとえばネットのコミュニティを生んだという側面もあったのだと思う。

だが時代は変わり、前述したとおりモラトリアムであっても政治的に中立であるとは言えないほどに社会が政治化されてしまった。選挙年齢は引き下げられ、若者の中には政治の現場へと足を運ぶものが登場し、またNPOなどを通じて広義の政治に関与することも珍しくなくなった。何かの態度決定を保留しモラトリアムで居続けるためには、それ相応の自覚と理由が必要になったのだ。

その意味で、もしも智花が「世界の破滅」というバッドエンドを回避するために「永遠にモラトリアムのセカイ」を魔法で作り上げたのだとすれば、またそれが「モラトリアムの繰り返しを通じて世界の破滅を回避するために努力する」ための期間なのだとすれば、幸せな学園生活を守ることは、そのまま世界を救うことにつながる。セカイ系のフォーマットを現代に取り込んだというのは、まさにその「世界を救うためのモラトリアム」の意義について提起しているように思えるからにほかならない。

繰り返しになるが、確かにまだ明らかになっていない謎も多い。たとえば裏世界に存在しない4人のキャラクターのうち、チトセと卯衣の来歴は明らかになったが、転校生、そしてレナの正体は不明だ。人間を襲わない魔物である「モンスター」であると思われる存在とともに過ごしているキャラクターもいるし、何より第8次侵攻を乗り切るための戦力を整える手はずが見えない。それどころか今年に入ってからはテロリストの攻勢が激化しており、モラトリアムを維持することすら困難になっている。

普通に考えれば、本作品はこれからクライマックスに向けて急速にストーリーが展開すると期待されるところだ。これだけの内容を今からプレイして追いつくのは大変だが、課金しなくてもストーリーを追うこと自体は難しくないので、興味のある人はこの世界観に浸ってみて欲しい。今回の記事では割愛したけれど、モラトリアムである方の学園生活においても、主人公とのコミュニケーションだけでなくキャラクター同士の関係や掛け合いも含めて非常に立体的で楽しめるものになっているので、そちらの方もぜひ。

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