三菱UFJ信託銀行のCMでは、ここ最近「相続」や「生前贈与」といったキーワードで信託銀行と消費者との関係を築こうとしている。その中でも面白いのが、中井貴一、柳沢慎吾、真田広之の三人による掛け合いが観られる「資産承継 「料亭」篇」だ。
その内容は、
柳沢さんが、父親に相続の話を持ちかけられたことをきっかけに、相続の話で盛り上がる3人。
父から会社を受け継いだ3代目社長の柳沢さんは「相続と言えば、やっぱり信託かなぁ」とつぶやくが、中井さんは「シンタク?」とはじめて聞いたようなリアクション。
一方、いかにもわかってる風の真田さん。説明するよう話をふられるが「なんだそれ?」とこたえる。
そんな真田さんに柳沢さんはすかさず「オイオイオイオイ」とツッコミを入れる。
というもの。中井・柳沢の両名が登場していることから、視聴者には三人が『ふぞろいの林檎たち』のように学生時代からの付き合いのように見えるし、そんな自分たちももう若くないのだなと語り合っている風の設定なのだろう。
興味深いのは、これらのシリーズでは共通して、登場人物たちは「相続」「信託」といった問題に受動的に接しているということだ。中井はCMの中で、友人、父や妻、息子の言動がきっかけになって、「オレもそろそろ、先のことをしっかり考えなきゃなあ…」という表情を見せる。あえて言うなら、80年代に青春を過ごした現在の中堅世代にとっては、いつまでも若々しい消費者でいることこそが社会の価値観の先端だったし、そこにとどまり続けることを目指して生きてきたのに、いよいよ「親の死」についてまじめに考えるという段になっても、どこか積極的になれない。
一方、真剣なのは親のほうだ。「不動産 「父の決意」篇」では、飲み会に急ぐ柳沢を北村総一朗が呼び止め、「今度、相談に行くぞ」と相続の話を持ちかけるも、柳沢は「親父、飲み会の時間」と告げて一方的に去ってしまう。料亭に着いた時には「親父のやつ、なんと相続の話をおっぱじめやがってさ」と言っていることからも分かる通り、柳沢はこの問題から積極的に「逃げた」のである。
あくまでCMの中での話だし、それがどこまで社会の実態とリンクしているかと言われれば、そこまでのデータは手元にない。ただ、自分もいよいよ似たような話を親からされるようになって思うのは、この国の中にはどこか、いつまでも若いつもりの働き盛り世代と、「オレが死んだ後のこと、真剣に考えてるのか?」と問いかけてくるその親の世代という構図があって、このCMはそんな空気を捉えているのだと思う。
そりゃそうだ。親だってピンピンコロリが理想だとかいうものの、そんな都合のいい話はない。介護が必要になったらどうするのか。葬式をあげるにしたって、リタイア後の人生が長くなった昨今では、誰にどんな形で知らせればいいのか分からない。ネットにも親しんでいるシニア世代の交友関係など、メールの履歴でも見ないと不可能だろう。マジで?親のメールの履歴から交友のある人に親が亡くなったことを知らせないといけないの?しかも、そういうあれこれが仕事や家事の負担が一切減らない状態でやってくる?冗談じゃないよそんなに会社を休めるわけないだろう。
と、真剣に考えろと言われても、「いやそりゃどう考えても無理だ」という気持ちにしかならないから、働き盛り世代は考えることをどんどん後回しにして、いつかなんとかならないかなと勝手に期待している。親の側は「終活ブーム」の影響か、自分だけでなく、遺される側のことも考えて計画を立てないといけないのに、ちっとも協力してくれない子供たちに頭を悩ませている。自分だって、いつまでも元気ではないのだよ、と。信託銀行に託すといっても、相続人や喪主が子どもであることに代わりはないのだから。
社会の高齢化が進んでいくとはそういうことだし、それに真剣に向き合うというのは、ミクロなレベルで現れるその問いかけに応えることだ。僕たちに必要なのは、その問いに応えることをずるずる先延ばしにしている僕らに、「いい加減、真剣に考えなさい」と言ってくれる人なのかもしれない。
という話なんだと思いましたよ。