儚い支持

雑記

10月25日付の毎日新聞に、僕の談話記事が出ている。衆議院総選挙に関して、いわゆる「中道・無党派層」にどのような影響があるか、という観点でコメントを寄せたものだ。記事内で紹介しているデータは前のエントリで言及したものなので、そこは既出なのだけど、取材後に様々な情勢の変化があり、やや補足が必要なところもありそうだ。

記事の全体的なトーンとしては石破・野田両氏の中道的なスタンスが、とりわけ都市中間層の志向にマッチする可能性があるという話になっているのだけれど、むしろこの選挙期間中の様々な報道は、有権者を幻滅させるものになっていると思われる。記事の最後で言及しているように、選挙後の「ゆるみ」によってさらに「古い政治」への回帰があからさまになれば、人々はより政治への期待を失うことになる。

ここで都市中間層と呼んでいる人々の志向とは、「経済面では、不利な立場にある人々を支援するために財政を用いるのではなく、減税などによって広く恩恵が行き渡る政策を支持する」一方で、「安全保障や多様性といったトピックについてはリベラルな態度をもつ」というものだ。第二次安倍政権が目指したものが「アベノミクスによる景気浮揚・雇用増を背景にした改憲」、つまり「池田勇人と岸信介のミックス」だったとすれば、中道層が求めているのは「池田勇人と旧社会党のミックス」であると言えるかもしれない。もちろん挙げられるトピックは現代的なものになっているけれども。

石破・野田両氏が与野党として対峙する状況は、有権者にとってこのバランスが実現するチャンスでもあった。石破氏は減税と言うよりは財政を用いて地方を支援することに意欲的だが、岸田政権の「人への投資」(つまり自己責任でエンプロイアビリティを高めるということだ)を継承すると言っていたし、野田氏は安全保障について石破氏に歩み寄る余地をもっていた。だがこの前提には、両党がそれなりに有権者に支持されるということがある。

報道されているところによれば、自民党はとりわけ小選挙区で苦戦を強いられており、それにともなって石破氏も立憲民主党への攻撃的な姿勢を強めているという。当然、野党側は勢いづいて「政治とカネ」の問題を軸に与党への批判を強める。すなわち都市中間層にとって「不公正なので許せない問題だが、政策的な優先度は低い」問題が、少なくとも選挙の上では争点になる。

注意が必要なのは、ここで「逆風」ないし「追い風」になっているものが、選挙後も引き続き有権者の支持を得る論点になるとは限らないということだ。自民・公明党、あるいは多数派を獲得するために連立するかもしれない他の政党にとっても、もしかすると地すべり的な勝利を収めるかもしれない野党にとっても、有権者の主たる関心は物価高や景気対策にあることは念頭に置かなければならない。

いまの状況は、2024年7月に行われたイギリスの総選挙に似ているかもしれない。保守党の度重なるスキャンダルや失策といった敵失を背景に地すべり的勝利を収めた労働党だったが、目下のところキア・スターマー首相の支持率は急落している。その背景にあるのは重大犯罪者への処遇や高齢者への保障削減、金銭スキャンダルにあるようだ。要するに、敵失で得た支持ははかなく、基盤を欠くものであるため、安定的・持続的なものにならないということだ。

いま、自民党への逆風と言われているものにも「敵への逆風が味方の追い風とは限らない」という話が当てはまるかもしれない。総選挙の後にどのような政治的妥協・連携が行われるとしても、どの党にも強い支持基盤があるわけではないことに注意する必要があるだろう。

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