7月20日に投開票が行われた第27回参議院選挙の結果は、事前の予想通りの自公過半数割れという結果となった。今後の政局は不透明な状況だが、2024年以降、様々な面で注目されてきた「ネットと選挙」に関するトピックがメディアで報じられたのも今回の選挙の特徴だろう。選挙後にも、専門家によるデータを用いた分析が行われることが予想される。
実は今回の選挙に関しては、筆者の研究室で行っている消費動向調査の実施時期が選挙公示期間とも重なっていたので、支持政党や投票意向、社会や政策に対する考えを聞いていた。ここではその一部を紹介したい。調査の概要は以下の通り。
調査期間:2024年7月
調査パネル:ネット調査会社のアンケートパネルを使用
居住地:全国
年齢:18歳~49歳の男女
回答者数:620名
断っておかなければいけないのは、今回紹介するデータはあくまで「速報値」であり、厳密な統計的検定や第三者による査読を経たものではないということだ。とはいえ、一般的に言われていることや関心の高い問題に答える部分もあるように思う。
投票先について
まずは、今回の参院選での投票意向について。比較のため、便宜的に「Z世代」とも呼ばれることの多い29歳以下と30歳以上に分けて見てみよう(両者の母数が異なることに注意)。30歳以上の約半数、29歳以下では約6割が「わからない・答えたくない」または「投票に行くつもりはない」と回答している。この時点で投票先を決めていない人も含まれるので純粋な「無党派層」とは言えないが、他の調査を見てもあり得る範囲だろう。

ここではとりわけ今回の選挙で躍進が報じられた、国民民主党と参政党について見てみたい。図の網掛け部分は分散分析において有意差が見られた項目だが、特筆すべきは、29歳以下の男性の約2割が国民民主党へ、30歳以上の男性の約1割が参政党へ投票すると回答していることだ。逆に女性は全体平均よりも低い数値となっており、男性のほうが政治的態度が明確であると言えそうだ。
関心のある政策
次に、社会に対する意識や個々の政策への態度を見てみよう。調査では、現在の日本社会について様々な角度からの質問を行ったが、多くの項目において、参政党支持者の特徴が際立つ結果となった。下の図にもあるように「日本社会には抜本的な改革が必要」「私たちの社会は年々悪くなっている」などについては国民民主党に投票すると答えた人も共通で高いが、それでも参政党支持者のほうが高いスコアになっている。

それ以外では「外国の影響で、日本の伝統的な文化や価値観が失われている」「日本は外国の言うことを聞いてばかりで強く言い返すことができない」といったナショナリズムに関する項目、「政治家は自分たちの利益のために働いている」「マスコミの偏った報道に振り回されている」といった政治不信・マスコミ不審についても高いスコアになっている。1点から5点のスケールで平均値が4.0〜4.3というから、これらのことに対して相当に強い信念を持っていることも分かる。
関心のある政策について見てみると、こちらでも「外国人の観光客が増えたら不安」「食べるものは国産のものを選びたい」「日本は外国の価値観に影響され過ぎだと思う」といったナショナリズムに関する項目でスコアが高い一方、「減税による手取りの増加」では国民民主党支持者と、「政府による貧困世帯の支援政策」ではその他の政党と並んでスコアが高くなるなど、幅の広い政策への関心を示していることも分かる。
ただここでは、賛否ではなく「関心があるか」を問うているので、たとえば貧困世帯の支援に関心があると言っても、より支援を手厚くするべきだと考えているのか、支援の対象を絞るべきだと考えているのかは明らかではない。そこで、望ましい社会の姿について2つの選択肢を示し、どちらに同意するかを聞いてみた。

その結果、有意差が見られなかったものもあるとはいえ、全体として参政党支持者はどちらかというと自己責任、自助の社会を支持することが明らかになった。具体的には「税負担が少なく低福祉の社会」や「最低限の生活保障以外は自助努力が求められる社会」に同意する傾向が、国民民主党支持者と同じようなスコアになったのである。
データから見えた傾向
以上の結果から、国民民主党支持者と参政党支持者の傾向をまとめると以下のようになる。
- 国民民主党は20代の男性から、参政党は30代、40代の男性から支持されている
- いずれの党の支持者も、日本が抜本的な改革を必要とする、問題のある社会だと考えている
- 国民民主党支持者が主として経済について関心を持つのに対し、参政党支持者は政治不信・マスコミ不信、およびナショナリズムにも関心が高い
- 望ましい社会のあり方としては、どちらの党の支持者も自己責任、自助を重んじる傾向にある
このようなプロファイルは、ネットや新聞・雑誌記事などで分析される両党(とりわけ参政党)の支持者に対する分析を裏付ける部分もあるし、異なる部分もある。ただし、あくまで回答者を量的に見た上で導き出した「傾向」であり、ある政党を支持している人が全員同じ考え方であるといった意味ではないので、その点は注意されたい。
また、このデータについては今後、より詳細な分析が行われることで新たな側面が見えてくる可能性もある。たとえば参政党支持者についてよく言われる「反科学」傾向について。全体で比較した場合には明確な差は見られなかったのだが、たとえば、「化学物質の広がりで、子どもの誕生や生育に問題が発生している」という質問について、女性に限定した場合、参政党支持者は他のカテゴリの人々より有意にスコアが高かった(参政党3.7>その他の政党2.9、1%水準で有意)。
感情的分極化と世論ハック
さて、今回の選挙ではとりわけ参政党の掲げる政策や主張をめぐって大きな議論が沸き起こった。とりわけ外国人政策に関する議論は、SNS、あるいは街頭のカウンター活動においても「差別反対」「当然のことを言っているだけ」という応酬が見られた。このことについてはどう考えるべきだろうか。筆者はここに、SNS時代の選挙活動の典型的な現象が起きていたと見ている。
2025年1月15日付の日経新聞で詳しく論じたのだが、ネットと選挙の関係が深まるにつれて顕になっているのが「感情的分極化」と「極論による世論ハック」の傾向だ。

感情分極化とは、政治の対立が「好き・嫌い」の感情によるものになっているということだ。記事では、「自分の子供が対立政党の支持者と結婚したら不幸になると考えるアメリカ人の割合は、過去50年間で35ポイントも増加した」「実験では、反民主的態度や党派間の敵意を煽るような投稿に接触した場合、怒りや悲しみといった感情が増幅された」といった研究を紹介しつつ、ネットの投稿が「かわいそう」「許せない」といった負の感情を刺激し、その結果として対立候補に対する敵対感情を強めていることを指摘した。
世論ハックとは、極論を投げかけることで、「中立」の立場をズラすような論法だ。たとえば、「外国人政策をどうするか」という論点に「経済を重視した受け入れ拡大」「治安を重視した受け入れ基準の厳格化」という二つの幅があるときに、「外国人は生活保護需給で優遇されているので排除すべき」という(事実に基づかない)極論を投げかけると、議論は「デマで外国人を差別してまで排除するのはおかしい」「いや、そもそも既成政党が外国人を放置してきたツケだ」といったレンジに拡大する。
興味深いのは、近年の研究では「ネットの情報に影響されやすいのは、無知な人ではなく、自分でよく考える傾向にある人だ」という指摘がなされている点だ。そういう人からすると、上に書いたように論点のレンジが拡大することで、「差別的なデマはいけないが、やはり規制の強化も必要なのではないか」という考えが「中立」の立場のように見えてくるのである。

この仮説を実証するには心理実験が必要になるだろうし、そもそも既にそういう知見もあるのかもしれないが、筆者にはいまのところそれらのリソースはない。ただ、今回の選挙における「絶対に当選させてはいけない」といったSNSに見られる感情的な反発や、それに対する「感情で反発するから支持者が意固地になるのだ」といった「冷静・中立」な意見から見えるのは、そもそもの論点の「中立」の立場がハックされたのではないかということだ。
この間、メディアでは「フィルターバブル」や「アテンション・エコノミー」といった、これまで専門家の間では語られていた用語がたびたびマスコミに登場し、筆者もその解説を担うことが多かった。そういう意味では社会的な知識の共有は進んだと思うのだけれど、「騙されないぞ」と思ったからといって、実際に影響を受けないとは限らない。政策・政局の問題だけでなく、「世論」というものをめぐっても私たちが考えるべきことはまだたくさんある。
