2026年衆院選は「価値観の断絶」だったのか―現役世代データに見る政策支持と政治的態度

雑記

2026年2月8日、全国的な大雪の中行われた衆議院選挙は、自民党が結党以来最多の議席数となる316議席を獲得する大勝となり、戦後初めて、与党第一党が単独で3分の2を占めるという結果になった。この結果を受けてSNSでもマスメディアでも、「なぜ自民党が大勝したのか」という話から更に踏み込んで、「なぜ中道改革連合(あるいはリベラル)はダメなのか」といった考察も広く展開されている。

興味深いのは、今後の与党の政策やそれが日本社会に与える影響ではなく、「なぜリベラルはダメなのか」「若者は現実的な選択として自民党を選んだのに、なぜ年長世代はそのことを分からないのか」といった「現実認識のできないオールド左翼」に対する考察が目立つことだろうか。ただ、そこでは「若者(あるいは「普通の日本人」)と特定の政党支持者の間で態度や認識の大きな違いがある」ということが前提に置かれているのだけれど、そもそも、それが本当に正しいのかは確かめられていない。ネットにありがちな「前提を確認しないまま、あたかもそれが正しいかのように論争が始まる」流れには注意しておかないといけなそうだ。

このエントリで紹介するデータは、2026年2月9日から11日にかけて行われたウェブ調査の結果である。選挙直後ということで、今回の選挙でどのような投票行動を行ったかを軸に様々な分析ができるようになっている。ここでは、いわゆる「速報」的な扱いで、ざっくりとした集計結果を見てみよう。

記事の主なポイント

  • 政党支持と政策態度は一対一で対応しているわけではない
    一部の論争的争点では政党間に傾向の差が見られるが、多くの項目で支持者の分布は重なり合っている。党ごとに明確な「価値観ブロック」が形成されているとは言い難い。
  • 世代差よりもジェンダー差の方が目立つ場面がある
    若年層が上の世代と全面的に異なる特徴を示しているとは確認できず、むしろ外国人政策やジェンダー政策では男女差が比較的はっきりしている。
  • 分断は党派間よりも「参加の有無」に現れている可能性
    投票層と非投票層のあいだでは態度の明確さに差が見られ、政党間の違い以上に、政治参加の有無がひとつの軸になっている可能性が示唆される。

調査概要

調査名:政治行動と価値観に関する調査
実施日:2026年2月9日〜11日
調査方式:調査会社のモニターを対象とするウェブ調査
対象者:全国の18歳〜59歳の男女
有効回答数:826名

投票先とその割合

まず今回の選挙の比例区で投票した政党が以下のようになる。投票しなかった、あるいは回答を拒否した割合が約40%であり、逆にいずれかの政党に投票した割合が約60%。今回の投票率が約56%なので、実際の選挙結果と極端に食い違うことはなさそうだ。

図1:2026年衆議院総選挙での投票先

結果を見ると、やはり自民党への投票者が多くなっているが、それ以外だと国民民主、中道、参政党、チームみらい、日本維新の会が比較的多くなっている。

では、投票先について世代による差はあったのか。性・年代別に集計したのが以下のグラフだ。

図2:性・年代別に見た投票先

世代差ということでいうと、たとえば「若者が他の世代よりも積極的に自民党を支持した」という傾向は見られない。むしろ年長世代に比べて自民党に投票した人の全体に占める割合は少なくなっている。もう少し細かく見ると、世代だけでなくジェンダーによる差が目立つことが分かる。すなわち、

  • 男性より女性の方が、「投票しなかった」「答えたくない」という割合が高い
  • 自民党以外では、40代以下で国民民主への投票が多い
  • 男性では、世代にかかわらず国民民主と参政党への投票が多い
  • 女性では、チームみらいと維新への投票が多い

といったことが分かる。なお、中道は30代男性で投票者が多くなっているが、ほとんどの性・世代で国民民主より少ない数字だ。そもそも今回の調査は59歳を上限とする現役世代を対象としているので、60代以上とそれ以下の間に断絶がある可能性もあるが、日本の人口の約半分を占める現役世代においては、それほど目立った世代差は見られなかったのであり、たとえば若者だけがそれ以上の世代とは断絶した価値観を持っているとは言い切れない。

個別政策への賛否

今回の調査では、個別の政策に対して「推進するべきか」も質問した。その結果が以下のグラフである。なお、サンプルの少なかった投票先は、一人あたりの回答によるブレが大きくなるため集計から除外した。

図3:「人々の生活を支援するために、政府が給付金を支給する」政策への賛否
図4:「人々の手取りを増やすための減税を進める」政策への賛否
図5:「政府の債務(借金)を減らすために、社会保障支出を見直す」政策への賛否
図6:「貧困世帯の生活を支援するための福祉を充実させる」政策への賛否
図7:「少子化対策として、現役世代を支援する経済対策を実施する」政策への賛否
図8:「国際平和に貢献するために、自衛隊の海外派遣も含めて積極的に活動する」政策への賛否
図9:「諸外国に対して足元を見られないように、防衛手段として核武装する」政策への賛否
図10:「資源の少ない日本を守るために、立場や考え方の違う国とも協力関係を築く」政策への賛否
図11:「労働力不足に対応するために、海外から働き手が来日しやすいようにする」政策への賛否
図12:「観光産業を盛り上げるために、外国人観光客を誘致する」政策への賛否
図13:「日本で暮らす外国人に、日本人と同じマナーや習慣を守らせるように指導する」政策への賛否
図14:「食の安全を守るために、国産の農産物の生産を維持する」政策への賛否
図15:「日本の文化を輸出するために、アニメやゲームなどの産業を振興する」政策への賛否
図16:「日本の伝統的な文化や遺産が失われないように、政府が保護する」政策への賛否

まず分かるのは、投票先によって政策に対する賛否が全面的に分かれるわけではないということである。減税(図4)では維新・国民・参政の投票者で推進派が目立つが、多くの争点では「推進するべき」「やや推進するべき」の割合は相当程度重なっている。方向が逆転するような項目は少なく、分布は大きく重なり合っている。

もっとも、争点ごとに支持者構成の違いが現れる場面もある。移民の受け入れ(図11)では中道投票者の推進割合が高く、社会保障の見直しではチームみらい投票者に一定の特徴が見られる。ただし、これらの傾向が他の政策項目にまで一貫して広がるわけではない。政党ごとに包括的な価値観ブロックが形成されているというよりも、特定争点ごとに支持者の分布が動く構造が見て取れる。

チームみらいについては、社会保障負担軽減では特徴が出る一方で、他の政策推進項目では強い賛成ブロックを形成していない。包括的なイデオロギー集団というより、特定の制度課題に焦点を当てた支持の形成と見るほうが実態に近いかもしれない。

今回、大惨敗と言われた中道だが、実は多くの政策的態度で自民党との差は見られない。試みに自民党投票者と中道投票者の回答の平均値の差を比較したところ、「自衛隊の海外派遣」「核武装」「海外からの労働力の受け入れ」のみ優位な差が見られた(5件法の回答を数値化し、全政党を対象とする分散分析を実施、1%水準で有意、多重比較補正済み)。

政治的態度の違い

また、調査では政策だけでなく政治的態度や価値観についても質問した。以下がその結果だ。

図17:生まれた家で有利・不利が生まれないように、政府が格差解消に取り組むべきだ(投票先別)
図18:結婚して姓が変わることで不利益を被る人が出ないように、選択的夫婦別姓を認めるべきだ(投票先別)
図19:男性と女性の組み合わせ以外でも結婚できるように、法律を変えるべきだ(投票先別)
図20:海外の人と活発にやり取りするために、早いうちからの英語教育を推進すべきだ(投票先別)
図21:一般的に言って、女性は男性よりも不利な生き方を強いられている(投票先別)
図22:日本は外国人が生活するうえで、他の国よりも不便の多い社会だ(投票先別)
図23:どんな人でも適切なチャンスを与えられれば、何かで活躍できる才能をもっている(投票先別)
図24:日本は世界に対して、平和な世の中を作るための責任を負っている(投票先別)

政治的態度についても、政党ごとに明確な一枚岩の傾向が形成されているわけではない。特定の項目では特徴が見られるものの、多くの項目では支持者の分布は相当程度重なっている。方向が逆転するような項目は少なく、差は主として強弱の違いとして現れている。

興味深いのは、「夫婦別姓」「同性婚」に賛成する割合が、参政党投票者でも他党と大きくは変わらない点である(ただし反対割合は相対的に高い)。また「英語教育の推進」では、維新に次いで高い賛成割合となっている。支持者内部には一定の幅があり、党のイメージと単純に対応しているわけではない。

これらの結果は、政党支持と政策態度が一対一で対応しているわけではないことを示唆している。支持者内部には相当の多様性があり、争点によって一致の度合いは異なる。したがって、党の公約や主張との一致のみで投票行動を説明するのは十分とは言えず、候補者や党代表への評価、争点の優先順位、あるいは象徴的な意味づけといった他の要因を考慮する必要があるだろう。

また今回の結果からは、政党支持者間の政策態度の差よりも、投票の有無による態度の明確さの違いの方が目立つ場面もあった。非投票層では「わからない」「どちらとも言えない」といった回答が相対的に多く、争点に対する態度形成の程度そのものに差がある可能性が示唆される。これは、党派間の対立よりも政治参加層と非参加層の間により大きな溝があるとする先行研究とも通じる視点である。

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ジェンダーによる政治的態度の違い

投票先の違いによる政策や価値観の違いが限定的だった一方で、明確な差が見られたのがジェンダーの違いだ。以下のような項目では、全年代で男女による差が見られた。

図25:「労働力不足に対応するために、海外から働き手が来日しやすいようにする」(性・年代別)
図26:「観光産業を盛り上げるために、外国人観光客を誘致する」(性・年代別)
図27:「結婚して姓が変わることで不利益を被る人が出ないように、選択的夫婦別姓を認めるべきだ」(性・年代別)
図28:「男性と女性の組み合わせ以外でも結婚できるように、法律を変えるべきだ」(性・年代別)

大まかに言って、外国人政策に関しては男性が推進派、女性が消極派という傾向が見られる一方、夫婦別姓や同性婚、その他ジェンダー平等に関する項目では女性が推進派であるだけでなく、同じ年代の男性との差が目立つ傾向にある。すでに見た通り、特に40代以下では自民以外の投票先として、男性が国民、参政、女性がみらい、維新という傾向が見られたのだが、そのこととこのジェンダー間の政治的態度の違いにはなんらかの関係があるかもしれない。

この記事では、選挙後に示されたさまざまな考察や解釈を念頭に置きつつ、衆院選の投票先および性・年代によって支持する政策や政治的態度に違いがあるかを確認した。その結果、一部の論争的な政策では政党間に傾向の差が見られるものの、多くの項目では分布は重なり合っており、ある党に投票した人々が他党の投票者と大きく断絶しているとは言い難かった。また年代差も一定程度存在するが、少なくとも本調査の範囲では若年層が上の世代と全面的に異なる特徴を示しているとは言えず、むしろジェンダー差の方が目立つ場面もあった。今回の選挙を「価値観の断絶」として理解するよりも、重なり合う態度の中でどの争点が投票行動にどのように作用したのかを検討する方が、実態に近いのではないだろうか。

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