観覧車のある風景

090821

現場に出て調査をするのは楽しい。けど、現場に出るための予備調査として、何の準備もなく歩きまわるというのは、疲れるけれどもっと楽しい。そんなわけでお盆は、いま着手しようとしているプロジェクトのために、関東中のアウトレットモールを調査していた。さすがに短い期間で全部を歩くのは無理だったけど、一都三県のアウトレットをあちこち歩くと、それなりに思うところはやっぱり出てくる。

アウトレットに関しては、お盆前の新聞にも記事が出ていて、高速料金の値下げの影響もあり、大繁盛していると書かれていた。確かにこの数年、アウトレットは出店ラッシュで、90年代末に続く第二次ブームだとも言われている。けど、ちょっと違和感も感じる。まず、日本のアウトレットは、アメリカとは違い、公共交通機関のアクセスが悪いところに立地しているとは限らない。むしろ北関東や東北を除けば、駅に近い立地の方が目立つ。おそらく御殿場や軽井沢のイメージが、東京の人には根強いのだろう。

また、アウトレットならどこも繁盛しているかのように思われているが、実際の姿は多様だ――脱線するけど、僕はこの「多様」という言葉を社会分析に用いるのはあまり好きじゃない。特に社会学の、あまりブリリアントじゃない研究でこうした言葉が用いられる場合、それは往々にして、自分が読んできた先行研究の事例に当てはまらない極端なものを見つけてきて「ほら、こんなものもあるじゃないか」と言ってみせるための常套句だ。けど、現実は多様に決まっているし、それを整理するモデルも提示できずに「それだけじゃないはずだ」とか言うのは、単なる無能の表明でしかない、と僕は思う。

閑話休題。今回の調査でも、人っ子一人歩いていないアウトレットモールや、半分以上が空き店舗のモール、フードコートだけが地元民の憩いの場になっているモールなど、閑散としている、というだけでは表現しきれない現場に何度も遭遇した。経済の世界では通常、こうした様態の違いを、消費者が集まってくる範囲を尺度に、「広域型」とか「地域型」と分類する。個人的には、フードコートに入っている店舗と、必ず入り口付近に設置されている喫煙所が大事だなと思った。多くの喫煙者の男性は、モールに入る前に喫煙所で一服してからでないと、家族を連れて長いショッピングタイムに付き合えない。フードコートにも喫煙席が設けられている場合があるが、ファーストフードではなく、カフェラテとフレッシュジュースが売り物の喫茶店しか入っていなければ、やっぱり肩身が狭くなる。こうした違いは、そのモールが誰向けに機能しているかを考えるいい材料になる。

そして今回の調査のもう一つの軸が、「観覧車のある商業施設」だった。アウトレットモールに観覧車やアミューズメントスペースが併設されているケースはいくつかあるが、この数年、街中の商業施設でも観覧車をウリにするところが出てきている。センター北駅すぐの都築阪急と繋がる「モザイクモール港北」などは、その風景にちょっと驚いてしまう。お盆休みということもあってそれなりに繁盛していたけど、日が暮れてここまでデートに来るカップルはどのくらいいるのだろうか、と思った。

観覧車でいうと一番印象に残ったのは、千葉ニュータウンのそばにある「ビッグホップガーデンモール印西」の観覧車だ。このモールそのものは印西牧の原の駅を出てすぐ目の前にあり、幹線道路を挟んだ向かいには、スーパーや家電量販店も並んでいるという、なんというかありきたりな郊外の風景なのだけれど、それだけに観覧車の存在感は異様だ。店子はアウトレットに限らず、1フロアながらだだっ広い書店などもある。ちなみに社会学のコーナーには、僕や東さん、Synodosの本が平置きだった。ちょっと切なくなった。

三井アウトレットパークのような、広域型で、店舗のバラエティも豊かで、フードコートが充実している(吾照里が出店していたのには驚いた!)ところには、マーケティング的に面白い現象が起きている。けれど二強といわれる三井、チェルシー以外の主体が運営するモールの方こそ、社会学的に面白いと思う。そこには、観覧車やアミューズメントを併設する非日常空間を日常として生きる人々がおり、そこで育つ子どもたちがおり、それを支える人もまた、地元の人だったりする。僕は、自分がこういう場所に馴染むような育ち方をしてきたという意味で、ああ、ここが僕の故郷だ、と思ったのだった。

片道1000円以上かけてやってきた場所で、夕暮れの中、乾いた風が吹いていた。調査計画に則って、駐車場を端から端まで歩き、どこからでも観覧車が見えるのだなあと気付いた。周囲を取り囲むのはマンションで、あそこからも同じ風景が見えるのだ。日焼けでちりちりと痛み始めた首筋を押さえ、水で冷やそうとトイレに入る。高級ホテルのロビーでないくらいお目にかかれないくらいの立派なトイレだった。そこから出ると目の前には、バイトの求人募集表が、まるで地元のスーパーで見かけるようなあの感じそのままで並んでいた。ちなみに時給は、どこもだいたい850円から900円だった。

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