選挙の後こそ、民主主義が問われる

雑記

選挙が終わった。というよりは新しい体制での政治が始まるという方が正しいのだけど、ともあれその結果を見て、予想通りだという人もあれば、意外だという人もあるだろう。特に第三極の政策や政権公約に興味があった人の中には、結局のところ自民党大勝という結果に失望した人も多いのかもしれない。みんな党の名前しか見てないんじゃないか、と。

ところで、それよりも気になっていたのは、選挙直前になってネットのあちこちからあがった「選挙に行こう」の声だった。それ自体はとても大事なことだし、勢い余って「選挙に行かない人に政治に口を出す権利はない」とか「選挙に行かない男と付き合うな」なんて話が飛び出すのもまあ仕方ない(どちらも間違った意見だと僕は思うけど)。ただ若年層に関して言えば、近年むしろ政治への関心は高まっているし、昨今の調査ではネットを熱心に見ているのはむしろ30代から40代らしいので、どこまで的に当っているのかはわからない。

そうじゃなくて僕が引っかかっていたのは、そこまで「投票」にフォーカスしていていいんだろうかってことだ。公示後には政治家のオンラインでの政治活動が制限されるとか、そういう問題はある。まずは投票率を上げることが大事だから、どこに投票するかは抜きで投票を呼びかけるという戦略も、ないわけではないだろう。でも政治に関心をもつというのが、投票に行くか行かないかの問題にとどまらないことくらいは、そういう人たちだってわかってるんじゃないか。

いま日本の政治では、無党派層の浮動票の行方が選挙を左右すると言われている。けど、選挙直前になっても投票先が決まっていない人が半分近くいるという事実と、そうした人が投票に行けば日本は変わるという願望の間には、どうしても大事な橋が欠けているように思える。

確かに、選挙に行かない人が減れば、選挙の結果は変わるだろう。でもそれは、それだけで望ましいことだといえるだろうか。

僕が「若者こそ選挙に行こう」という声を身近で初めて聞いたのは、2005年の衆議院総選挙のときだ。いわゆる郵政選挙と言われたこのとき、mixiの友だちが日記で投票を呼びかけているのを見て、えっ君って普段政治の話なんかしてたっけ、と思ったのが最初だ。どうもあのときの僕たちは、いま投票すれば、その党が選挙で勝つけれど、投票しなければ負けると考えて、「選挙に行けば政治が変わる」と言っていたように思う。

僕はといえば、比例で民主、小選挙区で自民の候補に投票したはずだ。ある民主党候補の、「自民党の新自由主義的政策は危険」という主張が、70年代から90年代にかけての欧米の新自由主義化の過程を学んだ自分には、すごく引っかかるところだった。

この時の結果は、自民・公明が327議席の歴史的大勝。民主党は113議席。都市部小選挙区では、ほとんど自民党一色だった。もっとも、首相だった小泉純一郎の改革や政策の多くはこの選挙の前に行われていて、小泉自身は06年には総理を辞めるので、有権者の「小泉支持」が、その後の自民政権とどの程度マッチしていたものなのかは怪しいものだった。


Wikipedia: 第44回衆議院議員総選挙より

実際、それから日本の首相はほぼ毎年変わっているのだけど、大きな節目だったのが09年の衆議院総選挙だった。「政権選択」というフレーズが飛び交い、投票に行くことで自民党政権にお灸をすえるのだ、という声があちこちで聞かれた。結果は、民主党が単独で308議席を獲得し、自民・公明は逆に140議席と大幅に減少。05年の総選挙の際に自民党が勝利した都市部の小選挙区のほとんどが、民主党の議席に変わった。僕が票を投じたのは、比例で民主、小選挙区では共産党の候補だったと思う。


Wikipedia: 第45回衆議院議員総選挙より

それから3年たって、いままた自民・公明は大きな勝利を収めようとしている。3年の間に民主党に政権担当能力がないことが分かったので、自民、あるいは他の党に投票するか、政治に失望して棄権した層が多かったということだろう。たぶん事前の投票呼びかけの声の中には、こうした結果になることを見越して、無党派層の棄権による自民党の大勝を避けるべきだと考えていた人のものもあったはずだ。

僕自身も、野党時代の自民党から出てきた政策には同意できないところが多かったし、地すべりだろうとなんだろうと、あるいは選挙制度上の問題であろうとなかろうと、数年おきに200議席近くも椅子が入れ替わるのは健全ではないと思うから、投票に行く人は増えるべきだと思う。でも、それと「若者が投票に行けば日本は変わる」というフレーズに同意するかどうかは別の問題だ。

これまでの総選挙を振り返って僕達が学ぶべきことは、選挙に行けば確かに政治は変わるけど、それは投票した人ではなく、当選した人にとって望ましい方向に変わるのだということだ。だから、投票に行くたびに日本が変わることを実感したければ、その時大勝しそうな方に投票し、勝ち馬に乗るのが一番だということになる。でもそれが僕達の望んでいた「選挙に行けば日本が変わる」ということだろうか。

選挙に行けば日本が変わるというフレーズのほんとうの意味は、こういうことだ。「迷わず選挙に行ける人がもう少し増えるくらい政治に対する関心が高まれば、日本は変わる」。だから重要なのは、投票日に投票所に行くことだけじゃない。常日頃から政治に関心を持ち、政策に関心を持ち、政治家に関心を持つことが何より大事なのだ。

僕たちは、今回の選挙でも誰に、どの党に投票したかを覚えておかなくちゃならない。次の選挙までの間、自分が誰を支持し、そのことについて現状でどう評価するかを考えていなくちゃならない。特に選挙に行こう的なことをつぶやいたり、リツイートしたりした人は、そうしたつぶやきを見た自分の友だちと、選挙後にこそ政治の話をした方がいい。選挙は終わったし、晴れてネットの政治活動を再開することができるようになったのだから。

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