いつまでも夢を見て笑う

一年の終わりを迎える日は、いつも今日で自分の人生が終わるような気持ちになっている。それは僕にとって死と再生の儀礼のようなものなのだけれど、年々、暦の上の年末年始が慌ただしくなり、今日のように年をまたいでの出張に向かう新幹線の中であってもその気持ちが変わらないのは不思議なことだと思う。すべてのことにさよならを告げて、もうこれで、やりたかったこともお返しをしなければならないことも言いそびれたままのお詫びもご破算。この世で築いたものは何一つ持ち込めない世界へと向かう。そんな気持ちで年越しを迎えている。

若い頃に抱えていた執着や意地といったものは、ある種の「やりきっていない」感覚から芽生えていたのだと思う。いつも、いま取り組んでいるタスクが終わったら死ねると思っていたし、そういう気持ちでやりきれるように何事にも全力で向き合ってきた。ただ僕は残念ながら才能には恵まれず、何に挑戦しても後悔と恥じ入るような気持ちの残ることばかりだったので、「次こそは」という思いがまた生まれてきて、それさえ終わればと思う、そんなことの繰り返しだった。

歳をとったせいで、さすがにそういう気負いはなくなったように思う。どれだけ頑張っても、自分の才能と実力ではやりきれることに限界がある。そして次の挑戦を待たずして、時間切れがじきにやってくる。やりきるために全力を出すのではなく、いつそのときが来てもいいように、手を抜かずに生きていたいと思う。生き急いでいるというか死に急いでるなんて言ってたけど、少なくとも自分の中の認識としては、そこまでの無茶はしていない、たぶん。

自己啓発の研究をしているうちに影響されたのか、未来を計画することが多くなった。2年後のゼミでの取り組みを見据えてテーマを設定するとか、10年後の目標額に向けて資産運用をするとか。そうしたことを推奨する自己啓発にはたいがい、「未来のことは不確定だから、人生の究極の目標を立てて、そこから逆算して将来を設計しましょう」と書かれている。何を言っているのかまったく理解できないのだけど、きっと僕か向こうの頭が腐ってるんだと思う。

不確定な未来に向けた人生の設計というのは、要するに願望であり思い込みであり祈りだ。願いを叶えるためのフラグは誰にも見えないのだから、これをしておけば望み通りの未来に到達できるなどという保証はどこにもない。まして僕はと言えば、明日があるとか次のチャンスに頑張ればいいとか、そういうことを根底のところで信じられない質だ。それなのに未来に向けていろんなことを計画したり将来の願望を語ったりするのだから、どうにも滑稽だと思う。

そんなことを考えていた折、今年何度かステージを見る機会のあったgo!go!vanillasの「デッドマンズチェイス」という曲を思い出した。ライブではメンバー4人がかわるがわるヴォーカルをとって、大サビでは1本のマイクに集まって歌う、ライブの中でもクライマックスに演奏されるこの曲は、なんだか今年の終わりの気分にぴったりだと思った。

どこまでもどこまでも馬鹿らしく
いつまでもいつまでも夢見てて
くたばったままでもまた目が覚めて
笑い声が響く
思い出せ
デッドマンズチェイス

生命活動が停止してしまったことにも気づかないくらい、夢中になれることにかまけていられる人生は最高だなと思う。未来のためにいま我慢すればきっと報われるだなんて思えなかったから、こつこつと勉強したり練習したりといったことができずに、今のような実力に甘んじてしまったという自覚はあるけれど、それでも馬鹿笑いできるような夢をずっと語っていられる日々は、とても有り難いものだなと思う。

明日がちゃんと来るなんて確信はない。けれど、「こうなる」と思っていれば、ちゃんとそうなるべき時にそれは実現するという、まったく根拠のない確信だけはある。ある日、あるとき、みんなが笑っていて、ちょっと泣いている人もいて、その日訪れた束の間のハッピーエンドを誰もが祝うような。あるいはいつの日か僕のいなくなった場所で、いいことも悪いことも含めて、それまでに起きたすべてのことを必然のこととして誰もが受け入れるような。そういう日が来ることを、僕は確信している。

一年の終わりよりも、そうやって見えたビジョンが実現する日の方が尊いに決まっているけれど、そんな不確定だけれども確信のある未来に向けて、年の区切りのお話を。もう20年くらい、毎年最後のブログには「七味五悦三会(しちみごえつさんえ)」について書いている。大晦日の夜、除夜の鐘の鳴る間に、その年に食べた美味しいものを7つ、楽しかったことを5つ、会えてよかった人を3人挙げることができたら、その年はいい年だったねと言って終わるという、江戸の昔の風習なのだという。あなたの今年と来年が、数えきれない、選びきれないほどのよろこびに満ちたものでありますように。

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