雑記20180106

昨年ほどではないにせよ、やはり卒論の添削を行う時期になると、自分(たち)の教育力やそれが目指すものと実態のミスマッチに直面して、ため息をつく場面が増える。というよりも、「このカリキュラムは、果たしてこの人たちの将来にどういう意味を持つのだろう」という疑問をぬぐえなくなってしまう。たまさか卒論や卒研が将来の仕事に直結したような人を除けば、大学での学びに熱心だったことは、サークル活動に明け暮れていたのと同じ程度の思い出にしかならない人が大半だ。思い出であれば、その目標は「いい思い出として残ること」なので、学者の世界における「研究指導」とは、そもそも採るべき手法がまったく異なってしまう。

そのことに対する疑問はまったくない。というよりも、「いい学生というのは教員の研究に理解を示し、研究者を目指す学生であり、それ以外は仕方なく付き合っている感情労働にすぎない」という(理系では一般的な)姿勢に共感したことはないし、与えられたテーマに沿って従順に実験をこなす人材が評価されるほど、文系の世界は専門性に特化されていない。どんなことであれ、どんな変化に直面しようとも対処することを求められる文系においては、「何があってもやりきった」という自発的な経験以上に、社会に出て「かならず役に立つ」と言えることはない。

だから、できるかぎり自主性に任せつつ、その中で各人が何かを学び取ってくれればそれでいいとは思うのだけど、困ってしまうのは、この数年のように、確実に「社会学部で学んだこと」が腹に落ちた卒論を書いてくる学生が増えた場合だ。

大澤真幸は、「すべての人は民俗社会学者(フォーク・ソシオロジスト)である」という。僕たちは、たとえば「インスタのストーリーに飲み会の動画を上げる人ってこういうことを考えているんだよね」という感想を述べるときにすら、既に社会学的な分析を行っている。社会に起きるあらゆる出来事は社会学的分析の対象であり、また、その人しか入り込むことしかできないフィールドであれば、語りの収集のような一次データであっても非常に大きな価値を持つ。古市憲寿君に「博士論文ではベンチャー経営者の金持ちエピソードをフィールドにしなよ」と言い続けているのも、そういう理由からだ。

ただ、と大澤は言う。誰もが社会学できるのであれば、質の高い社会学とそうでない社会学があるだろうと。語りやデータの中から大事なことを読み落としたり、一面の事実に対して別の事実を照らし合わせるセンスを持ち合わせていなかったり、社会学者としてもっとも重要な「対象に対してまったく共感せずにそれでも没入する」といった距離感を取れていなかったり、そういう研究は、どれだけ真摯なつもりであっても「質の高い社会学」にはならない。

この数年のレベルの向上は、間違いなく、学生ひとりではなし得ない「質の高さを達成するための取り組み」を、ゼミ内に分散し、彼ら自身が共有し、議論してきた結果なのだと思う。人は、普通は一面の事実しか見ることができない。それに対して別の視点を持った人との議論があり、卒論の準備を通じて、相手との相違点を埋め合わせたりねじ伏せたりするために文献やデータを収集していく過程で、それぞれの思考が深まり、結果的に「質の高い社会学」に至る道が見えてくる。

こうした「チーム戦」こそ、おそらく僕が学生の頃には存在しなかったシステムだと思う。研究というのは先生に言われていないことをすることであり、先生に反抗することであり、それゆえ一人で行うものだった。計量調査を行うグループは集団研究体制だけど、それはどちらかというとボスの指示に従う徒弟制であって、チームというイメージは希薄だった。結果的に「研究」は、大多数の卒業さえできればなんでもいい学生の中で、物好きが孤独に行うものだった。学年単位、ゼミ単位で「研究」が引き継がれるなどという話は、どこに行っても聞いたことがなかった。

だからこそ思うのだ。2年もかけて、ようやくここまでかと。昨年もこうだったからみんなもこうしなさい、とは絶対に言わないようにしている以上、どれだけ蓄積を重ねたところですべてはゼロに巻き戻され、また振り出しからのやり直しになる。でも、そうやってお任せでやらせてもここまでのことができるのであれば、最初からもっと、ここに向けて手をかけるという道もあったんじゃないかと。そうすればもっと学生たちは、「自分の研究成果」に誇りを持って出ていくことができるんじゃないかと。

それがないものねだりだと分かっているからこそ、最後の最後まで手を入れられるところには入れていこうと思って、気がつけば興奮してすぐに目が覚めてしまう。昨年の秋はずっとそんな感じの人工知能モードだった気がするけど、いよいよクライマックスに差し掛かってくると、もはや眠いとすら思えなくなってくるのだった。

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