水曜日は雑誌の取材で梅田へ。以前から気になってはいたものの、こういう機会でもないと、いい歳してわざわざ乗ろうと思わないHEP FIVEの観覧車に。入り口では写真撮影のサービスなんかもあって、エンパイアステートビルに登ったときのことを思い出した。
この観覧車、1998年のオープンというから、実はもう10年以上たっている。梅田の駅からこれを初めて見たのは2002年ごろだったと思うけれど、ずいぶんと街の景観に対してちぐはぐな建物だなあという印象だった。
それから5年以上たって、この辺りもだいぶきれいになったというか、印象が変わったなあと思う。路面の猥雑さは相変わらずだけれど、2001年オープンのヨドバシカメラ・マルチメディア梅田は、後のマルチメディアAkibaにまで繋がる「家電量販店が、かつてのデパートに変わる総合エンターテイメント空間になる」というコンセプトの先駆けになったし、NU茶屋町をはじめ、2000年代に入ってから広がった東側の再開発地域も、ずいぶんと「生きた」場所になっているように思えた。
その中でもなんで観覧車に注目したのかっていうと、都市の来歴や資本の流れとは無関係に、どうもここのところ、地方都市というか、ある種の郊外の風景と観覧車の相性がいいようなイメージがあったからだ。同じ関西で言えば神戸・ハーバーランドのモザイクガーデンにある観覧車「ワンダーホイール」(95年開業、03年改装)や、関東なら横浜の「コスモクロック21」(99年稼働再開)、福岡のマリノアシティにある「Sky Dream Fukuoka」(01年開業)など。Zepp Tokyoの上にあるお台場の観覧車は2010年に取り壊しが決まっているそうだけれど、その後もお台場には、森ビルとトヨタが絡んだエンタメ施設に観覧車が登場する予定なのだとか。
90年代の後半から00年代にかけて登場した「郊外の観覧車」の特徴は、かつての遊園地の中のアトラクションとしてのそれとは異なり、総合エンターテイメント施設、あるいは複合商業施設に併設される形での稼働が目立つことだ。そこにはおそらく、「再開発」という名で進められてきたバブル以後の郊外開発のコンセプトのパターンや、社会環境の変化による「遊園地からテーマパークへ」のシフト、あるいはそれに伴う受け手層の変化が背景にある。
けれど、僕が興味を持っているのはそうした社会学的なテーマだけではなく、そこから見える風景がどんなもので、そこがどういう場所・空間として消費されているのかという、文化論的なテーマだ。今回の企画でそれがどこまで活かせるか分からないけれど、実際に乗ってみることで、ちょっと違った視点から街を見られるようになった気はする。
それにしても、観覧車の一周というのはとにかく短い。どこの街に行っても、観覧車で告白しただのプロポーズしただのという恋のエピソードはありふれているけど(古典的なのは槇原敬之の「てっぺんまでもうすぐ」か)、「カップルには2周サービス」なんてのをやっているところが多いのもうなずける。そのとき観覧車のゴンドラは、都市の中では希有な「夜景付き個室」を提供するサービスになる。そこから見える街は、きらきらしていれば、実はどこだっていいのかもしれない。
今回は夕方の時間に乗ったので、残念ながら夜景ではなかったのだけど、ちょうどゴンドラの向こうには、建築中のビルの上のクレーンの間に沈んでいく夕日が見えていた。これがたぶんこの街で最初に見た夕日になると思った。ゴンドラが頂上から下りに入っていくころ、夕日は観覧車のフレームに隠れて消えていった。観覧車を降りると、そろそろ夜景を目当てにカップルが並び始める時間になっていた。クリスマスなんかのオンシーズンには、どんだけの行列ができるのかな、と少しだけ気になった。
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