「何もない日常」に閉じられたセカイ

雑記

初日に買った「俺たちに翼はない」を1ヶ月積んでまでプレイしていた「永遠の終わりに」をようやくコンプ。というわけでごく簡単にだけど感想を。

既に出ている感想とも重なるけれど、とにかくあちこちアラが多い。システム周りはしょうがないとしても、テキストとセリフの食い違い、発言者と名前の取り違え、果ては同じ人間の立ち絵が2枚出てくるなど、冗談かっていうレベルのミスが連発する。

何より驚くのは、文章がどうしようもなくヘタだということ。物語を書く上でもっとも重要な「視点の一貫性」は保たれていないし、そもそも文章のサイズがメッセージウインドウにはそぐわないものになっていて、バックログを何度か読み返さないと、物語の展開についていけないところさえある。ゲームで「くだらない文章」や「文法的な間違い」はこれまでもよく目にしたけど、ここまで「下手な文章」っていうのは初めての経験だ。

とはいえ、そうも言いたくなるのは、描かれている世界観なり、書こうとしているテーマなりは、非常にいいものだと思えたからだ。舞台となる「御室町」は、観光が唯一の資源の田舎町。この街に暮らす主人公と幼なじみたちとの関係が、物語の中心になる。

ただ、「主人公」とはいってもその内実は複雑で、そもそもこの「主人公」なる人物、長澤敬介が、結局のところどういう人物だったのか、最後まで明らかにされることはないのだ。何を言ってるか分からないと思うが、俺も分からない。ともあれ、こうした主人公の謎の立ち位置が、「視点の変化」や「シーンの切り替え」のぎこちなさに繋がっている部分だと思う。

そもそもこの作品には、設定やテーマという点で、名作「Cross † Channel」を想起させるところがいくつもある。たとえば、主人公の母へのこだわり、オープニング時点での仲間たちの不自然な関係、自分が不在の世界で友情を取り戻す仲間たち、といった要素だ。けれど、本作はそういった点に魅力があるのではない、と思う。この作品を魅力的なものにしているのは、文章の稚拙さも含めた「何も起こらない」「何も変わらない」永遠の日常と、その終わりが描かれていることだろう。

御室学園

主人公たちの通う「御室学園」は、廃校になることが決定している田舎の学校で、生徒は150名ほど。グラウンドからは山の端が顔をのぞかせる、のどかな環境の中にある。御室町は現在、再開発のただ中にあり、山の斜面にはところどころ、新しい宅地が見える。自分が通った中学校がまさにこんな立地だったので、僕にとってはある意味お馴染みの光景だ。それだけに、こういう地域で「学校」という空間が、どんな場所になるのかも、だいたい分かる。

主人公の仲間たちはみなこの町の生まれで、御室町に強い愛着を抱いている。それだけに再開発や廃校に対しては、それぞれに思うところがあるのだが、立場・考え方の違いもあって、必ずしも一致団結というわけにはいかないのだ。そうした「変化」に晒されている町で、変わらずにいること、永遠だと思っていた何か――その意味はキャラによって異なるのだが――を終わらせて、変化を受け入れること、そうしたことが、作品の根幹を貫くテーマになっている。

しかし、僕が心を動かされたのはむしろその「永遠」、彼らがこれまで享受してきた日常のほうだった。ぶっちゃけ、男女混成の幼なじみグループがこの環境で育って、いい歳になれば、当然のように惚れた腫れたの話にしかならない。けれどもその関係を進展させる消費社会的な材料は、完全に欠如している。カラオケすら描かれないこの町では、友だちの家に集まって酒を飲む(未成年だけど!)くらいしか楽しみはないし、付き合うとなったらセックスまで一直線だし、その後に続くのは猿のようにやりまくる日々だ。その唐突さ、必然性のなさは、シナリオの欠陥に見えるかもしれないけれど、僕にとってはすごくリアリティのあるものに思えた。

もちろん、そうしたことを描くのがどうなのかっていう話はある。ネット的には、未成年の飲酒や、それ飲酒運転じゃねーの?みたいな描写は、かなりアウトだろう。けど、何になりたいか分からないとか、ほのかな恋心に背中を押されてとか、そんな美しい日常が存在していない場所だって、この世にはたくさんある。Hシーンで描かれる嬌声と、そのすぐ後に続く、あまりにも冷めた地の文とのギャップは、ドラマチックな出来事なんて起こらない田舎町の現実が「その程度」のものであり、だからこそそれが、ささやかながらも大切なものになる、というリアリティに、うまくマッチしていた。

その上でさらに、その「何も起こらない日常」に何かを起こすべく、変化を受け入れること=大人になることを登場人物たちが選択するからこそ、この世界が美しく見えるのだ。これまでのままの日常の延長で、大人になれたらよかったのに、というリグレットを抱えながら。自分たちが払った犠牲のことを思いながら。

甲本ヒロトはかつて「普通の街で君と出会って/特別な恋をする」と歌った(「歩く花」)。特殊な街で出会った特殊な人との「普通の恋」を描くのが、恋愛ADVのひとつのパターンだとすれば、恋愛から疎外された人たちとは違う意味で、「恋」ができない人たちの物語が、本作なのだと思う。

最後にもう一度だけ。予約までして発売初日に買ったからこそ言える。でも、ゲームとしての出来はホントに酷いよね、と。

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