学内を歩いていたら、軽音サークルのライブ案内が出ていて、フジファブリックと相対性理論が並ぶそのラインナップに、ああ、今ってこんな感じだよなあと思ったり、というかほとんど邦楽なんだよな、そりゃそうだよな、奏る方も見る方もリテラシーの中心はドメスティックだもんなとかうなずいたりしていたのだけれど、「この感じ」には何か引っかかるものがあって、もう少し掘り下げてもいいものなのかなという気がしてくる。
軽音サークルなるものに属したこともないし、そもそも音楽をやることに「遊び/本気」というコードを持ち込むことそのものが理解できない僕にとって、「誰かと音楽を演奏することが楽しい」っていうのは、想像力の遠く及ばない領域なのだけれど、『けいおん!』の妙な影響力とかを見るに付け、実はみんなそういうのに憧れがあったのかなあとか思う。アニメだけを見た感想で言えば、私服のだっさい女子高生が楽器演奏だけをネタにしてほのぼのとした日常に繋がっている感は別に嫌いじゃないのだけど、異様に細かく描かれる楽器や演奏パートのディテールに対して、初めて楽器に触れたあの日の音やアンサンブルのこっ恥ずかしさの描写が貧しくてリアリティを感じられないあたり、どうも好きになれずにいる。その点で『キラ☆キラ』の悶絶するほどの恥ずかしさは素晴らしかった。
要するに僕は「お前らバンドなんてリア充ライフのためのネタだろ!初期衝動ってもんがないんだよ!」とひねているだけなのだが、じゃあ衝動に任せた音楽が素晴らしいのかというと、どうもそういう感じもしない。なんだろうな。「衝動」そのものがあるカテゴリーの中にあらかじめ収められているような感覚。
なんでそんなことを思ったかっていうとVMCでたまたま流れてたAloha From Hellの「No More Days to Waste」のビデオに驚いたから。拡声器を持った女の子がメロパンクを歌う姿は、椎名林檎かアヴリルかってくらいで、すっごい日本受けしそうな文脈に接続されているように思えたのだ。
このビデオを見て直感的に思い出したのは「恋は戦争」の「拡声器を持った初音ミク」だ。彼らの一連の作品があれだけ受け入れられる楽曲になった理由を、音楽的に推測するだけの材料は僕にはないのだけれど、「キャラを立てる」という意味では、Supercellの楽曲の中でもよくエッジが効いていると思う。「メルト」のようなクセのないキャラ立てがポピュラリティを獲得してしまうのはいたしかたないとしても、「ワールドイズマイン」や「ブラック★ロックシューター」よりずっと個性的な「恋は戦争」のミクが、僕は好きだったりする。
拡声器少女というジャンルがあり得るのかな、とも思う。とあるプロフサイトを見ていたら、よく聞くアーティストとして、椎名林檎、Cocco、Dir en grey、初音ミクって並べてる女の子がいて、あーなんだか分かるわそれ、って気がした。Supercellはたぶん、こういうところに食い込んだのだ。インターネットには親しんでいるし、そこで用いられているオタク的な文法もかすってはいるけれど、別にオタクじゃないし、V系も聞くけどバンギャじゃないって類の。自己評価はどちらかというと低めで、けど恋愛から撤退することはない、群れよりも孤立を好む寂しがり屋。
で、冒頭の「けいおん!」に戻ると、それが僕の心にしっくり来ないのは、たぶん彼女たちが拡声器少女の対極にいるからなのだと思う。その中でも澪はかなりいい線行ってるし、「Don’t Say “Lazy”」とかはむしろそっちなのだろう。でも、全体としてはそこに描かれるのは「楽しいクラブ活動=放課後」なのであって、疎外などこれっぽっちもない。彼女たちは学校社会の日常に居場所を持っている人たちなのだ。
ああそうか、と思う。軽音サークル全般に感じるリア充っぽさは、僕がどこかでロックの基底にしていた「School Out」的な感覚と、大きくずれているのだろう。それは別に尾崎豊に限らなくて、むしろTOM☆CATの「FENCE」とかの方が近い。フェンス一枚隔てた向こうには自由があるけれど、こちらには、同じ風が吹いてきたとしても、それはないのだという感覚。「バンドやろうぜ」という声掛けから、そのモチベーションを引いたとき、音楽は純粋に日常を守るためのものになるし、場合によってはそれ故にこそ、高いクオリティを獲得できたりする。衝動で音楽が演じられなくなれば、残るのは目標(武道館でもメジャーデビューでも)に最適化されたバンド活動だからだ。
25万円のギターを高校の部活動に持ち込むアニメを楽しめるくらい、僕らはサブカル的に豊かになった。僕はそれに共感できないからこそ、そのことを否定するべきじゃないと思う。どちらかと言えば拡声器少女に寄り添う僕の感覚に近いところで、もっとぶっ飛んだ作品が出てくれば、そりゃあもう拳を振り上げると思うけどね。
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