今月は年度末ということもあって、たくさんのご本をいただきました。ご恵投いただいた皆様に感謝するとともに、順不同でご紹介します。
(14歳の世渡り術)
河出書房新社
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みんなのアニキ、萱野さんの暴力論・国家論を14歳向けにまとめたもの。直感的に思ったのは、ある時期まで、こうした近代哲学や思想をベースにした子供向けの本というと、定番が鷲田さんで、そのまま大人になった世代が読むのが内田さんっていうイメージだったのだけど、もうその文体が(いまの子には)賞味期限が来ていて、入試に出す文章なんかでもネタ切れ感があったなあということ。出版社で、こういう本を実際に14歳向けの読書会の企画と一緒にやればいいのに。マーケティングでもあるし、市場創造でもあるし、ある種の社会還元でもあると思うのだけど。
慶應義塾大学出版会
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―パーソナルネットワーク・アプローチによる分析
日本評論社
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大学院の同期だった中尾研の二人から相次いで届いた博士論文。そういや僕、二人に献本とかしたときなかった気がする。というかそもそも二人とは酒を飲んでいた記憶しかないのだけど、こうしてまとまった業績を読むと、この10年くらいの時間がまったく別のものに見えてくるから不思議だ。前者は文字通りナショナル・アイデンティティについての国際比較で、日本、ドイツ、アメリカ、オーストラリアの各国の状況が分析されている。特に実証的なデータから、各国の拝外主義的傾向と関連する要因が示されているあたりは重要。
後者はパーソナルネットワーク論に依拠しながら、集団的体質を持つ企業と、ネットワーク的な関係形成を推奨する企業との間で、どのようなパフォーマンスの違いが現れるかを分析している。その結果明らかになるのは、上司-部下関係のような制度の縛りを緩くした企業では、相対的に弱くなった上司との関係を自己責任で維持する必要が生じるため、集団的な体質を持つ企業よりも、制度的関係が個人のパフォーマンスに及ぼす影響が大きくなるという逆説だ。「集団主義を脱却すればパフォーマンスが上がる」とは限らないというあたり、個人的な経験からも納得のいく話。
文藝春秋
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津田さんも解説を書いているのだけど、基本は近年のネットの「ソーシャル」なサービスが基礎とする原理が、お金にならないもの、感謝や名誉を媒介にした互酬的なものになっていることを指摘している本。そのアイディアそのものは何度も繰り返された凡庸な概念だけど、押さえておかなければいけないのは、それがアナーキストたちの夢見た、生活を支え合う人類愛の共同体ではなく、「ビジネス」の新しいあり方を示しているということ、言い換えれば、「衣食足りて礼節を知る」世界における「礼節」のあり方だということだ。この部分をすっ飛ばして「日本でも形にならない価値が流通し始めている」と煽ってしまうと、総中流イメージをよしとするいまの日本では、「金持ちの贅沢な夢想だ」と返されてしまうのではないか。
NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識」調査の最新版。政治への期待度が初めて高まったとか、おまじないや死後の世界を信じる人が増えたとか、すでに何度か言及されている結果もまとめて読むことができて便利。ただそれ以上に思うのは、この調査の設計の基礎が見田宗介にあり、そのため測定できる指標や設問のワーディングが、ある種の近代化論をベースにしていることが、とてもよく分かるなということ。それを批判するにせよ継承するにせよ、単なる「データの羅列」ではない部分まで勉強しておくことが求められるのだなと思った。
集英社
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お会いするといつも気のいいおっちゃん(もう70歳になられるはずなのだけど、すごい若々しいのだ)斉藤先生からのいただきもの。『パワーレス・エコノミー』の簡易版というか、内需主導・外需主導といった二項対立ではなく、海外直接投資の推進によっって不況を脱却するシナリオが描かれている。グローバル化に適応するために、研究開発等のマザーセンター機能を国内に残し、高付加価値を獲得できる人材を育成しつつ、生産の海外移転を推進するということだろう。理屈はそうだけどね、と斜めに言うこともできるけど、長期的には魅力的なプランに思える。少なくとも、若者が生まれ年によって世代全員で不利益を被る現在の制度を打破して、才能のある人間だけが生まれ年に関わりなく重宝される制度を作るため、流動性を高めるべきだ(っていう本音を隠しつつ)世代間闘争するアイディアよりはずいぶんましだと思う。
SFファンとしての菊池さんが、ニセ科学問題について書いた科学エッセイ。でも「君と僕のリアル」「僕たちは折り合いをつける」なんて項目タイトルから分かるように、中身はとってもやわらかい。西島君の表紙イラストとあいまって、ちょっとした(グロテスクなニセ科学信仰がはびこる)ディストピア小説を読んでいる気分になる。必要なのは、科学こそがうさんくさいとか、実証原理主義って人の感情に欠ける、なんて思っている素直な人たちに届く、まっとうな文章が書ける人だったのだなと実感。嫌みったらしい愚痴をブログに書き連ねた文章に飽きたら、こういう本を手に取ってみるといいと思う。
特集・社会の批評(NHKブックス別巻)
日本放送出版協会
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前のエントリで触れたとおり。個人的には永井さんの永井さんっぷりが楽しかった。