エナジードリンク市場が好調だ。リポビタンDやユンケルといった従来の「栄養ドリンク」市場に対して、黒船RedBullが乗り込んで新たな市場を拡大して以来、日本コカ・コーラ社のBurn、アサヒ飲料のMonsterなど、今年に入ってこの分野が活性化しており、コンビニでは棚の奪い合いが続いている。いま僕の周囲ではチェリオコーポレーションの「ボディーガード24」が静かなブームを見せていて、大学正門前の自販機では週末に補充しても木曜日には売り切れるという人気ぶりなのだけど、こんなところにもエナジードリンクが、という感じだ。
日経トレンディの記事によると、エナジードリンクの成功の背景にはふたつの要因があるように見える。ひとつは、「疲れているときに飲む」栄養ドリンクに対して「気合を入れるために飲む」のがエナジードリンクだということ。もうひとつは、そうした飲用理由がアルコールに似ていることから、飲食店でのプロモーションに成功したことだ。
どちらの理由付けにも突っ込みたいところはあるのだけど、まず何より気になるのは「気合入れ」と「飲酒」はそんなに似ているのか、ということだ。飲酒は、飲み始めてしまえば酔っ払うわけで、仕事の前に一杯飲んで、という飲み物ではない。そういう人もいると思うけど、少なくとも一般的ではない。じゃあなぜ、「ブルウォッカなんて絶対体に悪いよ!」と言われるにも関わらず、エナジードリンクカクテルは広まったのか?
エナジードリンクのカクテルは、僕の見ていた限りだとまずクラブシーンから広まった。これはヨーロッパでも似たようなことらしいのだけど、要するにエナジードリンクカクテルは、ただのアルコールとは違う、気分を高揚させたいシーンで飲まれるお酒なのだと思う。逆に言えば、ものすごいピンポイントなニーズに対応したイレギュラーな飲み物なので、マーケティング・ミックスとして、店頭でのプロモーション、サンプル配布といったところに力を入れるRedBullの戦略はすごく正しいのだ。顧客の特定の状態、特定のシーンに入り込んでいくことが重要だからだ。ちなみにこないだ自宅でブルウォッカを作って飲んでみたのだけど、とてもすっきりとした飲み口で、これならパーティー向けに出せるな、という印象だった。
もちろん、エナジードリンクはカクテルにするためだけに飲まれているわけではない。僕もそうなのだけど、大きな仕事や長時間の作業の前に一本、という感じだ。こうした飲用シーンは、アルコールよりはむしろコーヒーに近い。イタリア人が一日に何回もバルに行ってエスプレッソ飲む的な。ということは、エナジードリンクの競合は缶コーヒーだということになる。ただ、実際にターゲットや飲用シーンがどのくらい被ってるかは手元にデータがないので詳しい人がいたら教えて欲しいのだけど、最近の缶コーヒーはエナジーというよりは、気分転換やリラックスなどをイメージとして強く押している印象があるし、おそらくその辺はタバコなんかもそういう方向かもしれない。
飯島直子の出ていたジョージアのCMをもとに奥田民生が「休みが必要だ テレビがそう言ってる コーヒーで一息いれろと言ってる」と歌ったのは1995年。はっきりとした時期はわからないけれど、バブル期の「24時間戦えますか」でヒットしたリゲインから、ポストバブル期のサラリーマンに向けた癒し商品のはしりがこの頃だったのだと思う。要するに働く男性には気合ではなくリラックスが必要だったのだ。
旧来の嗜好品がそうやって癒し方向に流れ、「ファイト一発!」的な栄養ドリンクの存在感が薄くなっていくのを横目に登場したエナジードリンクは、「気合を入れる」という新しい消費者志向に刺さる商品だった。「気合い」は、肉体的な疲労感ではなく、精神的な高揚感、それもアルコールで酔っ払うような盛り上がりではなく、明確な目標に向けてアガることを示している。信念や自信を下支えするもの、と言ってもいい。ゼロ年代の後半くらいから、「頑張る」に代わって「気合を入れる」という志向が前に出てきて、そこに刺さったのがエナジードリンクだったのじゃないか、と思うのだ。
実は、気合を入れるという言葉が強い意味を帯びていたのは、ギャルのメイクの世界だった。ネット上では揶揄されることも多い小悪魔Agehaの奇抜な髪型も、がっちり固めたメイクも、見せるものというよりは自分に自信を持たせるものという意味合いが強い。それはマーケットとしてはピンポイントでニッチだけど、薄く広く存在していた志向の極端な表れに過ぎなかったのではないか。そう考えれば、エナジードリンク好調の背後に見出すべきなのは、高揚感やカジュアルさではなく、「癒し」より「気合入れ」を求めるような消費者志向なのではないか。