「自分の仕事」がいつも後回しになる理由

抱えた仕事が整理できない、と感じるようになったのは20代の後半だった。25歳で物書きの仕事をいただくようになり、本を出版してからは講演や学会への招待といった「替えのきかない仕事」も増えた。それぞれの分野で同じような仕事をしている先輩もほとんどおらず、まして、自分と同じようなレンジで仕事の手を広げている人に会うことなどなかった。必然的に、自分の仕事をどのようにマネージするかについて日々考える場面が増えた。

このブログでも、何度かそうしたことについて触れてきた(古いところでは7年前の記事)。とりわけこの数年は組織の副所長、所長といった仕事を引き受けることになったために、よくネットの記事なんかで上がってくるタスク管理術というよりも、いわゆるマネージャーとしての管理術に関心を持つようになっていった(たとえばこちらの記事)。当たり前のキャリアなんてなかった僕らの世代だけど、標準的にはマネジメントに移行する世代でもあるわけで、ある意味では自然の流れかもしれない。たまたまのご縁で意識高めの新刊も出たことだし、ちょっとここらで、現状のタスク管理についてまとめて考えてみたい。

仕事の管理には4種類ある

まず、働き方を管理する上で押さえておかなければいけないのは、「仕事はひとりではできない」ということだ。フリーランスが注目されるようになり、自分の仕事を自分でコントロールできる「自由な働き方」が誰にでも可能であるように思われているフシもあるけれど、現実には、そうした自由な働き方を成約する条件がふたつある。

ひとつは「時間の自由度」だ。締切のない仕事はほとんどないと思うけれど、それだけでなく「こちらよりあちらを先にやらなければならない」といった優先順位の問題、「これをやるためにはその前にこれが終わっていないといけない」というタスク間の依存関係、休日や深夜に仕事をしたくても許されないという勤務時間の規定など、時間の使い方には様々な枠がある。

もうひとつが「個人の自由度」だ。組織やチームで共同作業をしている限り、優先順位も依存関係も、自分の自由にできないところが出てくる。自分にとっては大きな問題ではなかったり、面倒だったりするにもかかわらず、絶対に誰かが拾わないといけない優先度の高い問題を任されることはあるし、メンバーの仕事が終わらないと自分の作業に取りかかれないという依存関係だってある。

このように考えると、「重要性×緊急性」で仕事を分類するアイゼンハワー・マトリクスが、実はすべての仕事を自分でコントロールできる特殊な環境下でしか使えないものであることが分かる。僕たちは好きで「重要でもなく、緊急でもない仕事」をやらされているわけではない。自分のモチベーションとは無関係に「やらなければいけないこと」は存在するし、それを拒否できないことのほうが多いのだ。

自分の仕事が後回しになる理由

図のようにマトリクス化してみると、仕事の管理には4種類あることが分かる。近年のトレンドである「タスク管理」は、あくまで個人が自分の裁量でとりかかることのできるタスクについてのみ扱えるもので、そのために「タスクの洗い出しなどのレビュー作業」に加えて「集中力やモチベーションを維持するための方法」といった自己啓発的な性格が強くなってくるわけだ。

だが個人で行う仕事だとしても、そのゴールを自分で決められる仕事ばかりではない。むしろそういう作業は、たとえばブログ執筆だとかYouTubeの動画作成といった個人事業主としての仕事の中にしかない。フリーランスであってもエンジニアやライターの場合、クライアントがいて、納期があり、そのための打ち合わせや移動の時間がある。あるいは組織に所属している中で発生する個人的な作業、たとえば「人事や税務の書類提出」のように、期限が決められているものもあるはずだ。それゆえこうした仕事は、きちんとスケジュールを管理し、締切を確認する、ダブルブッキングが発生しないようにするといった手順が求められる。

これが組織全体の観点に立つと、いわゆる「勤怠管理」ということになる。誰がいつ出勤していて、どのような仕事を担っているのか。タスクのアサインが不均等なものになっていないか(つまり「全員が同じ時間だけ働く」ものになっているか)、そのような不均等が生じないように、各人が担う業務量を見越したアサインが行われているかといった労務管理も含めたマネジメント作業においては、それぞれの時間の自由度も相対的に低くなる。

むろん、近年ではこうした「みんな同じ働き方」を強要することこそが非効率の源泉だとみなされるようになっている。重要なのは、その人に必要な勤務形態に適合的なタスクのアサインであり、また、必要な仕事が終わればあとは自由に時間を使っていいと考える、生産性重視の「働き方改革」だ。ここでマネージャーは、勤務状況ではなく、各人の仕事の進捗を管理する立場になる。進捗は仕事にかけた時間ではなく結果を示すKPIによって測られることになる。

もっとも重要なのは、多くの人が、このマトリクスのすべてのパターンの仕事を、同時に引き受けているということだ。出社してから退勤するまでの時間は記録として蓄積され、残業時間が規定を超えそうになったら作業を止めさせられる。人事部は社会保険の書類についての提出を急かしてくる。営業部長はチームに対して就業後に飲みに行くことを強制しなくなった代わりに、どんなことがあっても期末までにKPIを達成しろという。こうした状況の中では、「自分ひとりの都合で、いつやるか、いつ終わらせるかを決められるタスク」こそが、もっとも後回しにされることになるのだ。

タスク管理のアップデートが必要だ

もちろん、こうした「他人の都合で決まる仕事」に関わるものから主たる収入が得られているのなら、自由を手放すことはその代償だと考えることもできるだろう。ところが困ったことに、賃上げは思うように進まず、年齢とともに支出は増えるのに所得が伸びなくなっている。政府も産業界も、ひとつの組織から得られる所得で生活するのではなく、副業や金融投資を通じてオルタナティブな収入を得るように促している。社会の理想像がどうあれ、自己防衛として「自分の時間で自分のタスク」をこなしながら、全体の所得を増やしていくことを目指すほかない人も増えてくると予想される。

僕自身は、直近の収入というよりも、長期的な視点からこうしたオルタナティブな活動が必要だと考え、実践している。新刊でも書いたことだけれど、人間の人生はいまや会社勤めではない、あるいは収入のない時期が半分を占めるようになっている。生活の手段が高度に商品化された社会で、組織に自分の時間を売ることでフローの収入を得て、それを蓄財して生きていくというモデルだけに頼るのは、あまりにもリスクが大きい。副業に限らず、自分の時間を使って行うオルタナティブな活動で多様な人々との信頼関係を築き、お金に替えられない資産を形成することが、多くの人にとって重要な関心事になるのではないか。

そう考えてみると、まさに「タスク管理」を必要とするタスクを、日々の時間に確保しておくというメタ視点のマネジメントこそが、ひとつひとつのタスクをどう処理するかという問題に優先するということになる。以下では、僕がふだん行っている具体的なタスクマネジメントについて説明しよう。

毎週のタスクレビューで現状を把握する

まず大事にしているのが「タスクの全体像を把握する時間をつくること」。僕をこれは毎週のタスクレビューで行っている。具体的には、紙の手帳、Evernote、Trello、Google Keepに、必要なタスクを書き出して、一週間の時間とタスクの配分を決めるようにしている。

あまりにも使っているツールが多いように思えるかもしれない。これは、僕がこうしたツールのオタクで飽きっぽいからというだけでなく、極度に物忘れが多いタイプであるからというのが理由だ。目覚ましをいくつも用意する人と同じで、同じタスクを何箇所にも書きつける作業を通じて、タスクの洗い出しだけでなく、その全体像を頭の中に定着させるのである。

もっとも長期的なタスクを書き出しているのが、Evernoteの「長期目標と実績」というノートだ。ここでは、1年間に達成したい長期目標および月間の目標がリスト化されている。大学教員という仕事は年間のレギュラー業務も多いので、長期見通しも例年さほど変化しないが、ここで大事なのは、ここには長期の「目標=やりたいこと」を書くのであって、この時期は入試で忙しいとか、そういうことを書くのではないということ。あくまで「今年やりたかったことが、どのくらいできているか」を見通すものにする。

中期目標としては、同じくEvernoteに月間の目標およびタスクを書き出している。月間の重点項目(今月であれば『新刊の出版』など)から、アイゼンハワー・マトリクスにもとづく短期・中期のタスクの洗い出し、大きな出費の予定、Google Keepに書き付けている日々のつぶやきの転載まで、「その月に起きること・起きたこと」が集まるのがこのノート。これは、毎年の終わりに1年を振り返るエントリを書く前に読み返すようにしている。

この長期・中期・短期の目標は、具体的なタスクに落とし込まれた段階でTrelloにもカードとして投稿する。Trelloのカードは、優先度ではなく仕事のジャンルごとにリスト化され、その中から直近で進行するタスクだけを「今週の進行中タスク」に移動して管理している。またそれぞれのタスクには「短期・中期・長期」「しなければいけないことか、自分のやりたいことか」「誰かに連絡が必要な案件か」といったことでラベル付けを行うようにしている。

こうしたタスクのうち、より細かく「アクション」にまで分解できるものが、Google Keepの「To Do」というカードにリスト化される。何時に誰に電話とか、そういうレベルのものだ。繰り返すが、僕は本当に物忘れが多く、気が散るタイプなので、1分前に「やらなくちゃ」と思ったことですら、割り込みタスクが発生したらほぼ確実に忘れてしまう。人に指示されたことはおろか、指示を出したことも忘れるので、スタッフや学生にも「いま僕が言ったこと、そのまま僕にメールでリマインドして」と伝えるようにしている。なので、二重、三重の仕組みを用意して、PCからもスマホからも、なんならスマートウォッチにも位置情報と連動させた通知を出して、抜けがないようにしている(それでも年に数回は、クリティカルなヌケモレをやらかす)。

このウイークリーレビューで目標、タスクおよびアクションを整理したら、紙の手帳にもう一回、その週のタスクを手書きする。これも忘れないための作業だ。タスクの種類と色には関連付けられたルールがあって、たとえば学生との面談であれば緑色、といったように、ひと目でどのジャンルの仕事があるのかが分かるようになっている。この色分けは、そのままGoogleカレンダーにも採用していて、スケジュールを把握する際の基本ルールになっている。

スケジュールとタスクの関係

こうして管理されたアクションは、時間の決まっているものであればスケジュールとして優先的に確保され、そうでないものも、スキマの時間にひとつづつ処理されていくことになる。ただ、どれだけ「やりたいこと」だったとしても、漫然とこなしていると空き時間がなくなってしまうので、時間管理ツールとしてTogglを利用している。Togglじたいは数年前から利用しているのだけれど、最近ではGoogle Apps Scriptを用いてTogglのログをGoogleカレンダーに落とし込み、それをさらにスプレッドシートに持ち込むことで、ニュースチェックに何分、メールの返信に1件あたり何分、という目安を把握するようにしている。10分あるから、2件のメールは返せるはずだといった具合に。

もちろん、トラッキングも万能ではないし、そもそも記録に時間を取られて仕事ができないのでは本末転倒なので、あくまで参考程度にとどめている。要するに自分で決めたことができればそれでいいのであって、記録や洗い出しが不完全であるからといって死ぬわけではない。どちらかというと、放っておくとクリティカルなミスを連発する自分が、この程度のミスで済んでいるのだから偉い、というくらいの気持ちでいるのがいいとすら思っている。

ここまで、仕事の中でも後回しにされがちな、自由度の高いタスクをレギュラー業務の中に入れ込んでいくためのテクニックを紹介した。本来であれば、この仕組を応用しながらチームメンバーとタスクを共有し、よりよいコラボレーションを果たすためのテクニックについて紹介すべきなのだが、既にエントリもずいぶん長くなってしまった(そして予定していた執筆時間になってしまった)ので、そちらについてはまた機会をあらためることにしたい。