贈与をつなぐクリスマス

雑記

サンタのこない子どもたち

普段、悪いことばかりしていると、たまにいいことをしたくなることがある。自分にとってそれはクリスマスの時期で、そのときどきでいろんな団体に寄付している。この数年、特に気にしているのが「サンタのこない子どもたち」のことだ。

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率は2018年の新基準で14.0%。つまり7人に1人の子どもが貧困線(年間可処分所得が127万円以下)の家庭に育つということだ。数字ですべてのことが語れるわけではないけれど、こうした家庭では、プレゼントを買ってもらえないことよりも、「なぜ、自分の家にだけサンタが来ないのか」について説明できないことのほうが苦しい、そんな状況もあるんじゃないかと思う。

そういう現実があることを知ってからは、毎年この時期に、学生たちにもこの話をするようにしている。というのも僕らの研究課題は主に消費社会を対象にしているからだ。消費社会とは、「共同体の束縛から自由になる代わりに、お金で幸せを買うことを求められるようになった社会」のことを指す。そんな社会について批判的に捉えること、つまり「お金がないと幸せになれない社会は、果たして公正と言えるのか」について考えるきっかけがないのでは、やはり消費社会を学んだとは言えないはずだ。

ただまあ、そんな話をされても、というのも確かだ。教壇から理想論をぶったところで、社会が変わる力になる度合いはとても小さい。何かうまく現実を変えるアイディアがないかなと頭を捻って思いついたのが、「クリスマスカードで寄付を促す」という仕組みだった。

「もらってしまった」という気持ち

文化人類学や、近年の進化心理学が注目する概念に「贈与」と「互酬性」あるいは「返報性」というものがある。贈り物をする文化は世界中の多くの地域で見られるのだが、その共通の規則として「贈与の義務」「受取の義務」「返礼の義務」があると見なしたのが、社会学者、文化人類学者のマルセル・モースだ。私たちは贈与されたものに対して、そのモノがもつ価値を超えた、相手の気持や、それが受け継がれてきた歴史を読み込み、それ相応のお返しをしなければいけないと考える傾向にあるというわけだ。

この「もらったものと等しい価値のものをお返しする」という文化は、手渡されたものが別の誰かに渡っていくときに、大きな文化圏を形成する。モースも注目した、トロブリアンド諸島の「クラ」という風習について文化人類学者のブロニスワフ・マリノフスキーは、それが贈り物を通じて複数の島々の間に共通の秩序をもたらしていると論じた(参考)。贈る-贈られるの関係が二者に閉じるものではなく、むしろ社会的に開かれていくものであることは、桜井英治『贈与の歴史学』でも論じられているように、日本の伝統でもある。

だとするなら、プレゼントをもらえる人とプレゼントをもらえない人の間に、贈与の関係を築いてしまえばいいのだ、という着想から考えたのが、「つなぐクリスマスカード」だ。やり方はいたってシンプルで、クリスマスカードに、自分が送ったプレゼントの金額を記載する。そして、その金額と同じだけの寄付をお願いするメッセージを添えるのだ。前出の桜井によると、日本は世界でも珍しく、現金を贈与することに抵抗のない文化であるらしい。通常であればプレゼントの金額は伏せるものなのだけれど、文脈と気持ちが適切であれば、贈与をお金の価値で測ることも許されるのではないか。

今回は少しおしゃれにデザインしてみたものの、別に「この形でなければいけない」ということが決まっているわけではない。発案者として名を残したいとも思っていないし、ぜひともアドボカシーのためにハッシュタグをつけて拡散を、なんてことも考えていない。ただ、「そういう取り組みがあるのだな」という知識がある人にとって、クリスマスのひとつの選択肢になればいいと思っている。

届くべきところに届く

とはいえ、自分で実践してみないことには意味がない。というわけで、この秋から出演しているテレビの出演者の皆さんに向けて、プレゼントと一緒にカードもお贈りした。ありがたいことにピンチヒッターで出演中の武田アナの番組でもご紹介いただいて、また別の贈与の輪が広がるような気もしている。

ところで、贈与といっても、誰かに手渡されたものを、次はどこに届ければいいのだろう。たとえばNPO法人チャリティーサンタの試みなんかはどうだろう。これは、ボランティアとして子どもたちにプレゼントを届ける取り組みを続けている団体なのだけれど、この数年は、特に困窮家庭の子どもたちへの支援の取り組みを続けている。プレスリリースによると、

支援している家庭の中から「新型コロナによる収入減少があった子育て家庭(654世帯)」に対してクリスマスプレゼントに関する調査を実施した。その結果、新型コロナによる収入減少があった子育て家庭の3家庭に1軒は「クリスマスプレゼントを準備しない&準備できない不安がある」と回答した。 クリスマスプレゼントの予算は、12.9%が0円(準備しない、友人からの貰い物、団体からの支援品など)と回答した。

ということらしい。

なお、この団体と僕の間には一切の関係はない。ただ、「プレゼントをもらった感謝の気持を、別の誰かを支える気持ちに変える」ための選択肢として、参考にしてもらえればいいと思う。

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