2021年の音楽を振り返る

雑記

再開されたからこその苦しみ

2021年も、昨年に引き続きコロナに翻弄された音楽業界だったと思う。昨年よりはリリースも増えたものの、多くの曲の歌詞に「延期」や「中止」といった言葉が直接的、比喩的に盛り込まれ、リスナーに届けるエンターテイメントというよりも、アーティスト、あるいは業界全体の苦しみを共有したいという思いがあちこちで見られた。

実際、去年よりは今年の方が苦しかったという印象はぬぐえない。ライブは再開され、大規模イベントも、様々な制約の中で開催されるようになった。だがそうやってボールが主催者、アーティスト側に投げられたことで「どこまでが許されるのか」を考えることも、彼らの役割になったのだ。緊急事態、自宅療養、アーティストへの感染などの話題が続き、「ギリギリまで悩んだのですが」というツイートを何度も目にした。何年も好きだったアーティストが、何組も活動を休止した。

だからこそ、というわけではないけれど、2021年は大きくシーンの入れ替わる年だったなと思う。ベテランから若手へ、というのとも違う。どちらかというと音楽のジャンルそのものが、2000〜2010年代を牽引したJロック的なものから、より1990〜2000年代のオルタナに影響を受けた、無国籍な音楽に引っ張られたように感じる。そして何より、演奏がとにかく上手だ。キャノンボールの歌詞じゃないけど「70’s、80’s、90’sだろうが、いまが二千なん年だろうが」という時代になったなあと感じる。

音楽全体で言えば、2022年も苦悩は続くだろうと思う。夏から秋にかけては、海外のライブ映像を配信で見ながら「なぜ日本では、あれが許されてこれがダメなのだろう」と思うところも多々あったけれど、たくさんの人が自分たちの楽しみの場を守るべく行動したことで、いまくらいの状況で推移しているとも言えるので、いいとも悪いとも判断はできない。ただこんな1年に、素晴らしい音楽を届けてくれたアーティストとスタッフ、関係者の方々に感謝するほかない。


次世代の「記憶に残り方」

昨年に続いて、TikTokなどの短尺動画BGMからのヒット曲が相次いだ年だった。面白いのは、Awesome City Clubの「勿忘」が、ある人にとっては「映画の主題歌」だけれども、別の人にとっては「インスタやTikTokでよく聴いたあの曲」になってしまうように、音楽に触れるチャネルがバラバラになっていて、ヒットはしたものの、大衆の共通の記憶を形成するようなものではなくなったということだろう。同じ曲を多くの人が聴いているのに、話が通じないというのは、なんだか2020年代の風景を予感させるものがある。

Vaundy「しわあわせ」

今年はVaundy大ブレイクの年であり、年末に公開された「おもかげ」のようにプロデュースワークにも進出したことで、彼の程よく脱力した歌い方を実力派のシンガーたちがコピーして、今後のトレンドすら作ってしまうという結果を残した。ただ、じっくりと聴き込むと「あ、Vaundyだ」と分かるような特徴は維持しつつも、曲調の幅はとにかく広いので、作品提供の仕事も増えそうだなと思う。この曲については、やはりCメロからの展開にVaundyらしさを感じつつも、音域の広さもあってとてもドラマティックなので選曲。

WurtS「Capital Bible」

Social Hitという概念があるなら、今年のAwardは間違いなくWurtSだろう。「分かってないよ」はもともとTikTok売れを狙っていたとインタビューで語ってはいたものの、Vaundyと同じく脱力したボーカルや、その一方でロックともオルタナともダンスともつかない勢いのあるトラックは、明らかに高いユニークネスを誇っており、「売れ線狙い」とはまったく違う。そういう意味でWurtSが売れるという出来事がそもそも想定外なのであり、その想定外が来年も広がっていくところに期待したい。この曲は、WurtSの楽曲の中でも一番情念を感じるので好き。

Tani Yuuki「W / X / Y」

TikTok売れみたいに簡単に言うけど、上でも書いたように「ザ・売れ線」みたいなものはそれほどバズらない。歌の上手い人もルックスの美しい人もこの世には山ほどいるので、端的にレッドオーシャンなのだと思う。昨年、TikTokからバズったTani Yuukiも、今年はこの曲でちゃんとフックを残してきた。そろそろ現場では「いまのプラットフォームでの記憶に残る曲作り」のメソッドが見えてきているのかもしれない。

大橋ちっぽけ「常緑」

昨年も紹介した大橋ちっぽけがブレイクしたのはとても嬉しいことなのだけれど、よく考えてみれば当然という印象もある。TikTokは昨今のSNSの中でも「陰」と「陽」の振れ幅が大きく、幸福を歌うならどこまでも幸福に、という多幸感に満ちている。分かりやすいといえばそうなのだけど、彼のキャラクターや歌声は、「君が好き」というシンプルな感情を表現する上で、多くの人に採用されそうな要素が満載なのだった。

日本の「シティ」ポップ

Cody・Lee(李)「異星人と熱帯夜」

「我愛你」を聴いたときには「?」となったCody・Lee(李)だけど、今年、映画の主題歌になったこの曲で、余計に分からなくなった。単純なコード進行のループのように思えるけど実は複雑な構成だったり、どこかで既にやられたアプローチのように見えて意外にユニークだったり。ある部分ではいまのシティポップ・ムーブメントに乗っているのだけれど、それすらジャンピングボードにしてしまった、底知れなさを感じた一曲。

Omoinotake「彼方」

もともと楽曲の完成度も演奏力も高い人たちだけれど、この三連が続くビートを乗りこなしながら日本語・英語を取り混ぜて歌いきるのは、めちゃくちゃ難しい。アレンジ的にも上昇フレーズ、下降フレーズを巧みに織り交ぜながら、ストリングスを除くバンド本体の魅力、聴きどころをしっかりと作っていて、高度でポップでエモーショナルという、狙ってもできないのに狙わないと完成しないところを突いていて、とにかくすごい。

Nulbarich「TOKYO」

LAに拠点を移して制作された楽曲が「TOKYO」というのも皮肉だけれど、どこかこれまでのNulbarichさを残しつつ、そのメロディや世界観の美しさは、明らかに群を抜いている。コロナ禍の楽曲制作の苦しさについてはJQがインタビューで語っていた通りなのだろうけれど、祈りのようでもあり、祝福のようでもあるこの曲は、今年前半の僕にとってひとつの救いだった。

Lucky Kilimanjaro「KIDS」

今年はこの曲を含むアルバム、そしてシングルと多作だったラッキリ。どの曲も「踊り」という彼らのテーマに深く刺さっているのだけど、特にこの曲は、子どものような衝動を取り戻せ、という僕好みのメッセージが好きなのでセレクト。楽曲、アレンジ的には夏に出た「踊りの合図」の、ラテンハウスと日本の盆踊りが融合したようなアプローチもすごい。

アイナ・ジ・エンド「彼と私の本棚」

いやもうこのAメロの楽器隊、どうやってんの?という感じ。全員が脳内でクリックを流しながら、他の楽器の隙間を空けつつ、刺す所を刺していかないとこうはならない。たぶんアイナがめっちゃ踊れるからなんだけど、歌う方も普通だったらリズム隊に引っ張られてしまうところを、彼女らしいアンニュイなフィールを残しながらちゃんとビートになってるので、単なる「かわいい曲」とは到底言えない、ガチに攻撃的なポップ。

iri「はじまりの日」

昨年のブログでは「次の展開があるはず」って書いたiriだけど、今年はCMソングとかもあったりRADWIMPSのアルバムに客演したり、高いステップアップを果たした。が、やはり楽曲としてはこの曲が本当に素晴らしかった。ハイトーンで歌い上げるわけでもないのにじっくりと聴かせるこの感じは、ある意味では佐藤千亜妃にも通じるところがあり(「カタワレ」のドラムはほんとに素晴らしかった!)、今年は全般的に、音域の広くない曲が印象に残ったなと思った。

ロックはストレート

Conton Candy「ロングスカートは靡いて」

今年のニューカマーとして次に紹介するpavilionとどっちを先に紹介するべきか悩むところ。ストレートな3ピースバンドのサウンドなんだけど、サビで突き抜けるボーカルの気持ちよさは「絶対に売れる」と確信できるものだし、一方で歌詞に現れる若い世代ならではの感覚なんかも、ソーシャル売れを狙えそうなところがある。最初は「○○が好きな人におすすめ」的な扱いをされそうだけど、そういうのを無視して好きなように伸びていったらいいな。

pavilion「Yumeji Over Drive」

え、若い人なんですよね、とSNSとか見ててビビった。1A終わりの「Wow!」とシャウトするところも、というか歌詞や歌い方、ギターサウンドも、すべてにおいて大御所ロックバンド感がすごい。僕くらいのおっさんになると90年代後半のジャパニーズオルタナですよねって思ってしまうのだけれど、下手すると生まれてすらいない時代かもしれないのだよね、この世代にとっては。そう思うと、いまってすごい時代だなって。

postman「ダイヤモンド」

UKPっぽい!といえばそのとおりなのだけど、たぶんロックバンドでも、この数年のハイトーンの流行が一段落して、どちらかというとファルセットをうまく組み込めるメロディラインが流行の兆しを見せている。それはたぶんいまの若い世代が男性アーティストに求めているものが変わってきているということでもあるのだと思う。この曲のように演奏はソリッドで勢いがあるのに、ボーカルがめちゃくちゃ男臭いだけで突っ走るわけでもない感じ、今後も伸びそうだと思った。

TENDOUJI「STEADY」

いやもうめっちゃいいよね、このおっさんが大好きな90年代サーフ感。彼らのパンクはどこかで社会に対する反抗よりも、西海岸あたりで何して食ってるのか分からない人たちのやってるパンクというか、それが1周回って社会に何かを投げかけてしまう系の、でも本人たちはなんらそんなつもりがないっていう。いや本人たちのことはよくは知りませんけども。

Mr. FanTastiC「ケイドイド」

演奏の圧縮率の高さに、音楽専門学校の手練が集まっている感というか、2000〜2010年代のニコニコ、ボカロ文化が生み出したものの到達点のようなバンド。ハードロックでもあり、エモでもありなのだけど、この曲のように突き抜けたポップさがあって、いい意味で洋楽っぽさがない。この辺りも日本のシーンの到達点というところか。楽曲的には「スーパームーン」とか、元メンバーへの応援歌でもある「グッドラック」なんかもすごく好き。

情念の先に

CIVILIAN「ぜんぶあんたのせい」

6月にリリースされたアルバム『灯明』も全編を通して素晴らしいのだけど、特にこの曲の「これくらい見逃せよ」とか「君の所為だね」とか、つい人を責め立ててしまいたくなるいまの風潮をうまく捉え、それを単なるネガティブな感情ではなく、一歩引いて客観視する表現に高めていると思う。この曲と対で聴きたいjon-YAKITORY feat. Ado「螺旋」が「お前らのせいだ」と、ジャニス・ジョプリンばりのディストーションボイスで歌うのもすごく刺さっていたな、今年。

Dios「鬼よ」

もしかするともう音楽の世界には見切りをつけたのかもしれないと思っていたたなかが帰ってきた、と思ったら、それはそれは情念の深い楽曲をぶっこんできた。こちらは、自分の中の悪魔や鬼、負の感情をそのまま覗き込んでしまったような世界観で、ビートとギターの乾いたサウンドが絡まることによって、聴くものの頭を揺さぶってくる。というより物理的に頭を振りながら聴きたくなる。こういう、暗い森のような曲がまた聴けると思うと、来年に向けてゾクゾクする。

大森元貴「French」

Siip「オドレテル」

あまり多くを語りたくないし語るべきでもないと思うけれど、アーティストが自分の情念を作品に消化して、それを受け取ることができる環境があるというのは素晴らしいことだなと強く感じた2曲。

フィーチャリングの妙

MEZONdes「Hello/Hello(feat. yama & 泣き虫)」

MEZONdesという謎のアーティストがどこから出てきたのかまったく分からないのだけど、そしてこの曲も、コンビニのウェブプロモーション動画のシリーズでyamaをフィーチャーした作品のひとつだということを後で知ったのだけれど、ボーカリストとして表現力の高いyamaにこういうストレートな曲をぶつけるのはすごくいいし、トーンが低めのyamaだからこそ、アレンジ込みでサビで突き抜けてくる展開にドラマを感じる。

SawanoHiroyuki[nZk]:優里「Till I」

今年はソロアーティストとしても、「ドライフラワーの人」に終わらない活躍だった優里。もともとはブルーノ・マーズくらいに対応できる曲の幅が広いひとだと思っていて、本人の曲だけでなくいろんなところにフィーチャーで出ていくこともありと思っていたから、このコラボレーションはすごく嬉しかった。スロー〜ミドルテンポの曲でドラマチックに歌い上げる男性ボーカル曲って、ちゃんと歌いこなせる人いないんだよね。

古川本舗「yol(feat. 佐藤千亜妃)」

いまのシーンに帰ってきてほしいアーティストで1番に挙げていた古川本舗が帰ってきたということだけで万歳三唱なのに、フィーチャリングが佐藤千亜妃。コード、メロディ、アレンジのあちこちに散りばめられたシンセやピアノなど、かつての古川本舗のテイストを完全に現代向けに進化させてきたこの曲で、「いや古川本舗めっちゃいいんだよ、過去曲も聴いてよ」って言えるようになったことが、今年一番の収穫。

そして今年の楽曲振り返りの締めはこの曲。サビのフレーズと歌詞を聴くだけで、何度でも涙が溢れてくる。こんな曲を、今年に届けてくれてありがとうって言いたい。

スピッツ「大好物」

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