2023年の音楽を振り返る

雑記

2023年は、音楽的にはものすごく充実した年だったと思う。フェスを含めたライブイベントへの参加は計12回。同世代でも現役のベテラン勢から新人まで観たけど、みんなフラットな気持ちというか、批評的な意識を持たずに「ただの客」として素直に観られたような気がする。なので今年は、このエントリを書くのも難しいのだけど。

もうひとつ難しいのは、出演しているラジオ番組で作成した同人誌に2ページほど音楽レビューを書いたので、トピックや作品がそれと被ってしまうというのもある。できるだけ差をつけながら書くことにするので、気になる人はそちらもお求めください。

曲作りを頑張った

今年、自分にとって大きなトピックはとにかく曲作りを頑張ったこと。9月から制作を開始したのだけど、この数年の苦しみが嘘のようにメロディが生まれ、アレンジが浮かび、言葉が詞になっていった。おかげさまで年明けにはフルアルバムを配信できる運びとなったのだけど、その先行シングル「ここにいるのが君なら」は、この数年、たくさんライブハウスに足を運んだ影響がすごくよく出ていると思う。

New Single “ここにいるのが君なら” – Deep Breath Project

技術的には、いまどき作曲、演奏、ミックス、マスタリングといったあたりは多くの動画で解説が見られる。もちろん、音の組み合わせは無限にあるので「言うは易く行うは難し」というところはあるのだけど、ちゃんと仕組みを勉強して、それを音に落とし込んでという作業を続けているうちに「ああ、こうすれば自分の思っている形になるのか」というのが少しだけ見えてきた。もちろん素人が家から一歩も出ずに作っているものなので課題点はたくさんあるのだけど、いい歳をして自分で自分に満足のいくものを作れる人生はとてもいいなと思うので、冒頭から宣伝させてもらいます。

シンガーソングライターの復権

さて、今年のトピックとして大きかったのは、「シンガーソングライターの復権」というところ。いやもちろん、あいみょんに代表されるように自作自演アーティストはずっと人気なのだけど、コロナ禍を挟んで生活の中に定着した動画サイトから、内省的で表現性の高い作品が話題になることが多かったと思う。

さとう。「3%」

動画がバズる以前から曲は気になっていて、「小惑星移住計画」なんかすごく好きだったのだけど、ストーリーテリングの妙というか、まさにスマホの中からヒットが生まれるときに、こういう歌詞が出てくるんだよなと感じた曲。かつて「ギャル演歌」なんてのを提唱してしまった僕なのだけれど、メディアと音楽性のつながりについて久しぶりに考察したくなった。

tuki.『晩餐歌』

こちらも動画サイトからのバズ。とはいえ15歳のシンガーがひとりですべてを作りきったとは思えないくらい音楽の周辺のクオリティが高いので、それなりのバックグラウンドがあるのかなとは推測するけど。

フジタ カコ「かなしくないよ」

シンガーソングライターの活動の場は、おおむね下北沢のライブハウスか路上といったところで、なかなか地方までは来てくれない。だから今年サーキットイベントでライブ観られたのは嬉しかったなあ。連続リリースからのアルバムも決まっているので、来年はもっと知名度が上がると思う。

脱ロックのロック

おいしくるメロンパン「シンメトリー」

昨年、今年あたりからいよいよ「平成っぽいロックバンド」の次が見えてきたのかなと思っているのだけど、たとえばおいしくるメロンパンなんかには強くそれを感じる。別にすましているわけでもギターが歪んでいないわけでもないけど、どこか過剰な熱さから距離を置く感じは、「ああ、いまみんなが聴きたいのはこういうの」って思う。

Tele「金星」

年末のフェスで観て、ああもうこれは来年絶対にハネるわと確信したTele。以前から何度もライブのチケットが当たらなくてやきもきしている間に、すっかり大物の貫禄になってしまった。よく歌詞のテイストに小沢健二を感じるという評価を見るけど、どちらかというと、ほどよく熱く、ほどよくクールで、ほどよく政治的で、ほどよく優しいZ世代の心理をこれでもかというくらい体現していると思ったし、その意味で「いまのアーティスト」と呼ぶべきだなと思う。

レトロリロン「ヘッドライナー」

最近はギターではなくピアノ主体のロックバンドも目立つようになったけど、この曲によく現れるピアノロックの力強さは、やっぱり令和サウンドの特徴のひとつだと思う。

素晴らしかった話題作

Conton Candy『ファジーネーブル』

こっちは2021年のブログで紹介しているくらいの初期から大注目していたConton Candy。動画サイトのBGMで大バズだったこの曲のイメージが定着してしまうのは逆に可哀想かもとすら思った(のと単純に古参ぶりたかった)ので気持ち的にはもやもやしていたのだけど、イベントライブで1年ぶりくらいにステージを観たら、演奏力も客の煽り方も抜群に向上していて、この成長速度なら安心じゃないかと思った次第。この次の曲が大事よなと思っていたところで「baby blue eyes」「リップシンク」と安定して曲を出してきたので、ほんと若い人はすごいなあって。

10-FEET「第ゼロ感」

いや一体誰が2023年になって10-FEETがお茶の間でバズって紅白まで上り詰める時代が来ると思ってたよ。こっちは新宿ロフトで「ライオン」とか聴いてた時代の人なので、ロックバンドがちゃんと浸透するくらい、いろんなものの表現性が高まったというか、ほんとよかったなって。

羊文学「more than words」

音楽性やアレンジをめちゃくちゃ変えてきたわけじゃないのに、すごくエポックに変わったと思うんですよこの曲。イントロのコードのトーンもこれまでにはないものだし、Aメロの入りで微妙にシャッフルしてたり、サビのメロディもドレミの中間音をフェイクで入れたり、技術的にもすごく高度なことをしている。一回聴いてこりゃすごいってなったもの。

WurtS「BACK」

同人誌の方でも書いたのだけど、どこか人を食ったような曲が目立つWurtSだけど、その本質は乾いた諦念や喪失感にあると思ってて、ほんとにいいなって思うこの曲。ちなみにSNS見たら、このために買ったアコギが[Alexandros]の洋平さんと同じやつって言ってて、ライブで見たらGibson HP665だった気がした。いいなあ。

文化ではなく衝動

というわけで今年はどちらかというと「いま感」のあるアーティスト、作品に寄せて紹介したのだけど、ベテラン勢もすごくよかったし、そもそも全体的に満足度の高い年だったのですよ。ただ一方で、やっぱり亡くなる人のニュースも流れてくるわけで、そろそろ「今年あったように来年も続くとは限らない」というのが正直なところ。年長世代が元気でいる限りは続けてほしいけれど、若い世代はそういうノリとか流れとか無関係なところで好きに始めたらいいと思う。

今年、一番印象に残ったMCがあって、夏フェスで渋谷龍太さんが「ダイブは文化じゃなくて衝動だと思ってる」って言ってた話。直前のバンドがモッシュやダイブを煽りまくったのを受けて、主催者から注意を入れるかどうかという話になったのを受けて急遽入れたMCだったのだけど、ものすごいセンスだなと思った。こう、コロナでいろいろ禁止されていた反動で、若い世代が「ライブってネットで見たけどモッシュとかするものなんでしょ」っていう風に、「文化だからするもの」って受け取ってる節は僕も感じていたところだったのだけれど、そうじゃないよっていう。

SNSとか、他人の目がすごく気になる時代だし、「こうするもの」っていう型が欲しいのはみんなそうだと思う。けれど、だからこそ、「したいからするんだ」っていう衝動を何より大事にしたいよね。そう、だから僕も衝動に任せて曲を書くし、リリースしていくので。

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