普通に生きていれば、普通に幸せになれるはずだ、という考え方への信頼は、「普通でない生き方」への恐怖を、裏面に持っている。少しでもはみ出してしまったらもう未来はない、あるいは、普通の人生ではあり得ないくらいの苦労が待っているはずだ、という。
だけれども、そうした「転落」のきっかけは、今ではどこにでも見られる。病気だとか、倒産だとか。ちょっとしたきっかけでハードモードの人生が始まる状況を指して「『溜め』のない社会」なんて言い方もする。つまりバッファというか、普通の人生の外側への緩衝地帯がないということだ。
「震災」という出来事は、そんなバッファのない社会で、色んな人々を「普通の外」に放り出してしまった。特に子どもたちは、あるのが当たり前だったことが、大なり小なり失われた経験を、自分の思春期の一部にしなければならなくなってしまった。授業でプールには入れなかったってレベルから、学校と、学校生活がなくなってしまったという人まで。
劇場版『ヒミズ』の背後には、そういったテーマが流れている。そう聞くと、古谷実の原作を知っている人は「あれっ?」と思うかもしれない。そもそも同作に震災の話は出てこないし、決してハッピーエンドではない作品なのだから、あまり希望のある未来は描けなそうだ。 (続きを読む…)
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