位置情報連動型ゲームにおける広告プラットフォームの可能性

前のエントリでは基本的に学術的な関心から「空間」と「情報」の話を論じたのだけど、その一方で僕も、「ポケモンGO」のような位置情報連動型ゲームが広告プラットフォームとしてどのような役割を果たしていくのかについては強い関心を持っている。これまで広告プラットフォームとして大きな影響力を持っていたソーシャルメディアとは異なり、リアルの店舗に直接的に送客を見込める広告は、競合する媒体も活用の仕方も独特のものになると思われるからだ。

先に結論だけを述べておくと、こうした位置情報連動型ゲームと結び付いた広告は(1)様々な場所に移動する可能性の高い大人がプレイする傾向が強いため、新規顧客の獲得には強いが、リピーター獲得には弱い、(2)リアル店舗を展開する業態は、新規客であってもリピーターの見込みが低い来訪者を歓迎しない場合がある、(3)普段の立ち回り先での広告展開を考える場合には、プライバシーへの配慮が重要になる、という3点の課題を抱えている。この点を解消する見込みが立てば、多くの利用者獲得が見込める「ポケモンGO」の広告プラットフォームとしての可能性は高くなるだろう。

1.位置情報連動型ゲームの利用者

ゲームというと子どもの遊ぶもの、という認識が間違っているわけではないが、位置情報連動型ゲームに関しては微妙だ。この分野の草分けであるコロプラにしても、多くの利用者を獲得したイングレスにしても中高生がユーザーのメインではない。というのも、多くのゲームが位置情報をゲーム性のコアとして取り入れる際に「普段行く機会のない場所を開拓すること」や「見知らぬ土地を含めた多数の場所で情報をチェックすること」を求めているからだ。自前での移動手段が限られ、また日中は学校に拘束されている子どもたちにとっては、これだけで遊びの幅が大きく下がる。

逆に、外回りの営業に出る機会の多いビジネスパーソンや、比較的時間に余裕のある主婦層、フリーランスの仕事をしている層には、こうした仕組みは遊びやすいものになる。ポケモンの歴史を考えれば、本作は30歳前後の世代まで十分浸透しているブランドであると考えられるので、「ひとまず触れてもらう」から「日常的に利用する」というフェーズにスムーズに移行できるのは、おそらくこの年代で移動の自由が利く層ということになるだろう。

こうした人々に向けて意味のある広告展開や店舗誘導を行おうとする場合、どんな点に注意が必要だろうか。ポイントは、ユーザーが「新しい場所に来たときにポケモン探しをする可能性が高い」ということだ。そこに「こちらのお店でレアアイテムをゲット!」という情報を配信すれば、馴染みのない場所であることも手伝って、来店を促すことができる。実際、「ポケモンGO」の場合、こうした送客誘導がビジネスモデルのひとつになっているようだ。

そうすると、ここで可能になるのは「新規顧客の獲得」ということであろう。一方で、そこに来訪した目的が「たまたま」なのであれば、次回その場所に来てもらう可能性というのは相対的に低い。つまりこの種の広告で獲得した顧客も、たとえばレアアイテムのキャンペーンを行っている期間が過ぎれば来店しないと考えられる。リピーターの獲得、新規顧客の定着という面で見れば、これは必ずしもよいことではない。

2.新規開拓か定着率の上昇か?

もちろん「知ってもらわなければ意味がない」からこそ広告を打つのだ。しかしながら「とにかく来てもらえればいい」という業態もあれば、そうでないものもある。後者の代表は飲食店だ。近年、飲食店ではネット予約の無断キャンセルが相次いでおり、大きな問題になっている。直前キャンセルの防止のためにデポジットを取るサービスも始まった(記事)が、そもそも予約が減少するリスクを考えると、痛し痒しといったところだ。

おそらく飲食店、それも個人経営のような店舗においては、「ポケモンGO」のようなゲームを広告プラットフォームとして活用することのメリットは低い。新規オープン時のキャンペーンなどには使えるだろうが、地域に根を下ろして商売をする上では、大事なのはリピーターの獲得だからだ。逆にこうした商売をしているところでは、「ポケモンお断り」の看板を掲げる必要があるかもしれない。

一方、どこでも買えるようなコモディティを仕入れて販売するような流通業、あるいは全国に大量のチェーン店を持つようなグループでは、本作を用いた広告展開は非常に有望だ。ユーザーが多いだけでなく、彼らが全国どこかのお店で自社の製品を購入したり、近所の店舗を訪れたりするよう促すことができれば、メーカーあるいは流通グループ全体としては売上増につながる。

既存のモデルでこれに近いのは「LINE公式スタンプを用いたキャンペーン」だろう。あまりに有名な例になってしまったが、LINEが企業向けに展開するスポンサードスタンプを用いて「コアラのマーチ」のスタンプを展開したところ、2週間後のコンビニでの売上は前週比16%増となったという(記事)。同様に、ファストフード店で特定の商品を購入するとレアアイテムがゲットできるといったキャンペーンを展開することで、たとえば新商品の認知を高めることが可能になる。

3.位置情報関連ではデータ活用のあり方が課題に

ファストフードチェーンであれば、各店舗の売上高データが重要になるのだが、他の流通業、製造業となるとどうだろうか。単なる販促のためのプロモーションチャネルとして割り切るならいいかもしれないが、やはり突っ込んだデータが必要だというケースはまま想定される。食品メーカーが「商品に付いているコードを入力してアイテムをゲット!」というキャンペーンを展開するなら、やはりゲームに登録した情報と連動させて「どの程度の販促効果があったのか」を特定したいという要望は出るだろう。

さらに、複数のチェーンでポイントを共通化しているような場合、「お店の買い物で貯まったポイントをアイテムと交換できる」というキャンペーンを展開することも考えられる。この場合でも、ゲームのプレイの仕方に応じた重み付けで相互送客を促すようなやり方を取り入れれば、ポイントそのものの事業的な魅力が上がる。ひとつの店舗ではなく、複数のチェーンの複数の店舗で購買した方がポイントが付きやすくするわけだ。

現時点で、「ポケモンGO」に関して、こうしたビジネスモデルが検討されているという情報はない。しかしながら、位置情報と連動した購買などのアクティビティに関する情報というのは、パーソナルデータの中でも個人を特定するものになりやすいため、その扱いには慎重になる必要がある。これはどちらかというと法制度の話ではあるが、ビジネス展開を考える上では避けて通れない部分だ。

これらの課題が存在することを踏まえても、「ポケモンGO」は有力なプラットフォームになり得るだろう。というのも、現在の広告プラットフォームであるソーシャルメディアは基本的に海外製であり、またその利用データが事業のカギでもあるので、たとえ広告主であっても自由に利用できるわけではない。自前でデータも活用ということになるとオウンドメディアを展開する必要があるが、そうすると今度は、そのメディアの魅力やアクティブユーザー数を高めていくことのハードルが高い。その点で多数の利用者を獲得する見込みのあるゲームが、広告プラットフォームとしても活用できるとなると、その価値は相当に高いと言える。

ただしこれは逆に言えば、「ポケモンGO」がLINE並の利用者の広がりを持つことを前提にした場合の話だ。最初に述べた通り、位置情報連動型ゲームは相対的に移動の自由は高いが、ゲームにのめり込むほどの時間はない大人での利用者が多く、また興味深いことに、ユーザー同士の交流を通じたコミュニティが発生する傾向が強い。こうした要素が「ポケモンGO」を「LINEに匹敵するプラットフォーム」にしていく上でどのような影響を与えるのかは不明だが、いずれにせよ利用の拡大ペースやアクティブユーザーの属性・動向によって、この辺りが見えてくることになるだろう。

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