3ヶ月間のオンライン対応

異例続きだった2020年度の春学期(前期)も、7月半ばで授業期間が終了し、学生たちはまだ課題などが残っているものの、実質的に夏休みに入る。全国の大学がそうであったように、僕の勤め先でも授業がすべてオンライン化され、昨年までは対面で行われていたゼミ選考の説明会や面接も含め、あらゆる教務対応の変更を迫られることになった。

こうした環境の変化に適応するには、それなりの気持ちの切り替えが必要になる。だがそれ以上に重要なのは「どうやってオンライン化するか」という手段の部分だ。今回、僕がたまたま学部執行部の職務を担っており、特に新入生の多くに関係する施策を実施したこともあって、教務のオンライン化について様々な知見を得ることができた。できたこともできなかったこともあるし、状況は刻一刻と変化しているのだけれど、一旦の区切りということで、この3ヶ月で行ったことをまとめておきたいと思う。

1.新入生ガイダンス

最初に対応したのは、新入生ガイダンスのオンライン化だ。学年の人数が定員ベースで650人と大規模であるため、これまでは新入生を半分に分けて履修登録に関する説明会を行っていた。だが大教室に300人以上を詰め込むとなれば密になるのは避けられないし、一方で、入学式から数日のうちに履修登録を完了させなければいけないというスケジュールは動かない。3月末の段階で職務を引き継いだ際に、僕からウェブサイトでのガイダンスを提案し、PWAサイト(スマホアプリのように利用できるウェブサイト)を構築して対応した。

メールの記録やファイルのタイムスタンプを見る限り、オンラインでのガイダンスを決めたのが3月24日で、その日のうちに構築を開始したので、開発期間は約1週間。サイトに掲出したのは、学内のシステムを利用する上で必要なシステムIDとなるメールアドレスの設定、学内システムへのログインの案内、履修登録と、それを行う上で必要な単位取得の仕組みの解説。その他時間割などの資料へのリンクといったところ。インタラクティブ性のある情報はなかったので、既存の資料をスマホから見やすい形に再編集することで対応できた。

4月に入って、本来なら開催されるはずだった入学式は中止になり、新入生は定められた時間に登校し、最低限必要な書類を受け取って、あとは各自でスマホを見ながら履修登録を行うことになる。後にも述べる通り、新入生はこの日と、春学期の最終回の演習の2回しか学校に来ていない。心苦しいところだが、数百人を一斉に登校させることが難しい環境下で、リスクになる行動を抑制するという点では効果のあった施策だと思っている。実際、履修登録について事務に問い合わせが殺到するといったこともなく、履修登録までの流れは比較的スムーズに行われたようだ。

PWAサイト(Glideで作成)

2.1年生向け科目での対応

もうひとつ僕が担っているのが、1年生向けの必修科目である基礎演習の運営だ。多くの大学で「大学での勉強の仕方」を学ぶ導入科目が開講されているが、勤め先の場合、十数名の非常勤講師が20名程度ずつ、計30数クラスという体制で運営されている。ICTへの習熟度が異なるだけでなく、全講師を集めてガイダンスを行うリソースもなかったので、オンライン対応の多くを僕が引き取り、講師の方々と連携して進める二重体制をとることになった。

これも従来から科目担当者全員に、回ごとに実施する内容と配布する資料、そして学生に提出させる課題を細かく決めていたこともあってレクチャー部分をオンライン化することはそれほど苦ではなかった。たとえば図書館は閉館されていたが、オンラインデータベースの利用法について説明し、電子書籍を検索して書誌情報を確認し、課題に記入して担当教員にメールで提出させる流れを僕がオンデマンド講義の形で指示し、それぞれの教員はレクチャーの内容のフォローアップ、質問の受付などを担うという分担だ。

 当初から、レクチャーは僕が担うので、新入生のケアや人間関係の構築については、可能な範囲で現場の教員にお任せするという意図だったが、後に聞いたところでは、早い段階からSlackやzoomを用いてコミュニケーションを図ったクラスもあり、ある程度まで分担が機能していたように思う。感染状況が比較的落ち着いていた春学期最終回では、顔合わせの意味も含めて1年生に登校の機会を設けたのだけれど、その際も、既にクラス内で関係性が生まれている学生も少数ながらいたようだ。

3.オンデマンド講義

自分の担当している講義科目は、オンデマンドでの音声配信に切り替えて実施した。ビデオを撮影して編集するのは、科目や他の執行部対応が増えている中では現実的でなかったし、長年のラジオパーソナリティの経験からも、またDTMマニアゆえの機材の充実度からいっても、もっとも対応コストが抑えられると考えたからだ。また学生の通信環境がはっきりせず、不必要に動画化することで通信量を圧迫する懸念もあった。なにより、資料の情報量が多いので、視線は資料、耳は音声という形で集中させないと、講義を聞いていられないだろうと考えたのが大きい。

内容面では、一部の解説をカットしたものの、基本的に昨年までと同じ内容・情報量。音声ファイルは平均15分で1回あたり3〜4本。どの回も合計すると1時間弱になったと思う。

音声配信に加えてインタラクティブ対応として、技術サポートの質問フォームを設けた。これについては、フォームそのものに一般的なトラブルシューティングを掲載していたこともあって、学期を通じてほとんど質問はなかった。また一部の回では、講義内容についての簡単な質問とコメントを記入するフォームを用意し、寄せられた回答についてのフィードバックを行ったが、通常のリアクションペーパーの場合と異なり、かなり高い割合でコメントが返ってきたのが印象的だった。

4.演習科目の運営

自分の担当するゼミに関しては、既にPWAサイト(アプリ)とSlack、EvernoteなどのICTツールが普及していたので、オンライン化に伴う技術的なハードルは低かった。また卒論指導を行う4年生のゼミは、そもそも就職活動によって出席できない学生が多いことから、オンデマンド配信に移行することが可能なカリキュラム設計であったために、一部の内容は音声講義として配信し、リアルタイムのオンラインゼミで内容のフォローアップという体制で運営した。

苦労したのは、例年、新しい消費コンセプトを提案することが目標になっている3年生のゼミだ。当初から「zoomでのリアルタイムゼミでは例年並みの目標は達成できない」と考えていたため、メインのツールとしてRemoを採用した。20人も人間がいると、積極的にしゃべるのは毎回固定された2、3人になる上、学生たちのマインドとしても「大勢の人の前では発言したくない」という姿勢が濃厚だ。そのため、テーブルを固定し、その中で少人数のグループのコミュニケーションを促すことで、各自の参加感を高めることにした。

Remoのスクリーンショット

Remoを利用したことの効果として、「教室の臨場性が体感できる」ということがある。休み時間になると、空いたテーブルに仲良しで移動して自主的にコミュニケーションを始めたり、それが可視化されることで、発話によらない形での人間関係を感じ取ることができるのは教員にとって非常にありがたいし、(いいか悪いかは分からないけれど)学生たちにも何らかの影響はあっただろう。

また春学期には、秋からゼミに所属する学生の選考も行った。勤め先でのゼミの決定は、学生が志望先を提出し、教員が選考するというスタイルを採っているのだけれど、上述したように消費コンセプトの提案など、比較的ハードルが高く志望者も多いゼミを運営しているの関係上、選考課題なども課しており、説明会の開催は母集団の形成、ひいてはその学年のゼミの運営に大きな影響を与える重要な要素だった。

今年度は対面での説明会が実施できず、その点でゼミ選びに苦労した学生もいたようだが、僕の場合はまず、紙で配布していた採用パンフレットに代わる情報をPWAサイトで提供し、またYouTube Liveによる説明会の配信も行った。選考ではオンライン面接は実施しなかったけれど、数年前まではそのスタイルで選考を行っていたので、こちらとしては気にならなかった。むしろ面接がなくなったからか、志望者が例年よりもずいぶん多くなったことの方が印象的だった。

5.まとめ

他にも行った施策はあるし、その中には研究者や教員というよりは、プログラマーやデザイナーに近い(というかそれでしかない)ような仕事も多々存在する。言い換えると、そうしたスキルや実際の運用経験があったことで「それ、できますけど」と手を挙げることが可能になったのは、自分のやってきたことに対する大きな自信につながった。オンライン化で苦労された先生方の話はよく聞くけれど、運用面を除けば、スキル的に困るところはほとんどなかったからだ。

一方で、やはり「技術者」にとどまってしまった感が否めないのは反省点だ。というのも、そもそもこの「オンライン化」自体が、KPIの存在しない泥縄的な措置だったからだ。対面のときと同じかそれ以上の教育効果を得る機会にするべきだという意見も、この非常時なのだからできるだけ負担にならないように、通常よりも易しい内容にすべきだという意見もある。「オンライン化はイレギュラーなもので、いずれ対面に戻すための緊急避難」という立場も、「オンライン化こそがニューノーマル」という立場もある。何を目標にオンライン化するのかという点はいまだ決着を見ておらず、刻々と変化する状況の中で、明確な決断を下すことができないまま今に至っているという印象がある。

何を目標にするのか分からない状態で技術者は、「それをしたいんだったらこういう手段がありますけど」という思考しかできない。あるツールを提供することで、結果的に何を達成するのかという課題解決のレベルまで考え、提案することができなかったのは、ややもったいなかったかもしれない。

今後の見通しという面では、やはり「大学の価値の問い直し」は避けられないだろうと感じる。学生に勉強させることに苦労することがそれほどない、相対的な上位校に勤めていても、勉強や研究よりは、思い出と友だち、そして内定と卒業証書が大学生活の軸である学生がマジョリティだ。特に大規模私大である勤め先では、学生を登校させることに対するハードルは非常に高く、そのため思い出や友だちを得る場所としては機能しにくくなる可能性が高い。内定を得るためには早期からインターンに参加せねばならず、そこではオンラインも含めて大学よりも積極的なコミットが求められるわけだから、「登校させられない」大学の価値はそれだけ目減りする。

大学に登校させることの価値は、今後も大きな問いの対象になるだろう。実技や資格のために必要というわけでもなく、ただキャンパスで遊んでいるだけのように見える学生たちの行動は、以前述べたように「裏のカリキュラム」として大きな効果を持っていたと思っているけれど、それは大学外で代替不可能なものばかりではない。むしろ、親密な関係作りは個人的にSNSやマッチングサイトで、内定獲得に生きるガクチカ(学生時代に力を入れた経験)はバイトやNPOで、という風に外部化されていけば、登校させるカリキュラムこそが学生にとって「邪魔」だとみなされるようになるかもしれない。中高年の管理職が寂しがるから若手も出勤させられているけれど、会社は仕事の場所であって仲良くするところではない、という話がある。それと同じで、教員が寂しがるから学生を無理に登校させたいだけ、就職のじゃまにならない範囲でオンデマンド講義だけ配信してください、となった大学で、現在のコストに見合う価値を提供できる大学がどれほどあるのか、やや不安になるところもある。

むろん、それは一部のコミュニケーション強者の話であって、大半の学生にそのような能力はない。だから引き続き学びのコミュニティとしての大学は価値を持つのだという意見もあろうが、残念ながら研究者の多くは友だち作りの専門家ではない。ましてマッチングサイトの運営者でもない。

こうした状況を認識している人は、決して少なくないだろう。ただ、この数ヶ月さまざまな対応をしてきて感じるのは「問題があるじゃないか、どうするんだ」と状況を分析して課題を指摘するだけの人が、とにかく約立たずで邪魔だったということだ。その批判精神は学者の営みとしてはとても大切なことだけれど、課題解決や組織運営という面では、状況を引っ掻き回してタスクを増やすことにしかならない。僕自身は、この状況に見合った学びの体制の構築や、そのための手段の創造という課題をとてもポジティブに捉えているし、最高にクリエイティブな営みだと思っているので、今後は単なるツールの提供に終わらない長期的なビジョンまで含めて構想していきたいところだ。