2022年の音楽を振り返る

雑記

「帰ってきた」のではなく「はじまった」

2022年も終わろうとしているけど、今年の音楽を振り返ると、むしろ「はじまった」という感が強い。確かに、サマソニ、ミナホ、レディクレと大型フェス、サーキットイベントには軒並み参加したし、ライブを見に行くという点ではすごく充実していた。ただここで「はじまった」というのは、コロナからの行動制限緩和によって様々なエンタメが再開されたということだけでなく、昨年の音楽まとめ記事にも書いた、新世代、新ジャンルへの入れ替わりが進んだということでもある。

とりわけ印象的だったのは、いわゆる「ラブソング」でない曲の存在感だ。世界的に見ても若い男女の恋愛を歌った楽曲はスタンダードでなくなりつつあるし、アーティストに求められるものも、感情の代弁ではなく自己啓発になっていると思う。誰かの背中を押したり勇気づけたりすることが音楽の重要な役割であるような、そういうトレンドはしばらく続きそうだと思っている。

Z世代音楽のはじまり

Tele「Véranda」

谷口喜多朗のソロプロジェクト「Tele」。存在に気づいたときにはワンマンもチケットが当たらないくらいの人気になってた。初めて聴いたときは小山田壮平みたいなスタイルなのかなと思っていたのだけど、どちらかというと詩的な世界を幅広いアレンジで表現していくアーティストなのかと思ったのがこちらの楽曲。

PEOPLE 1「Deadstock(feat. きのぽっぽ)」

今年はチェンソーマンの楽曲もあって一気に知名度を高めたPEOPLE 1。彼らもアレンジの幅は広いけれど、この曲はどこか「水星」を彷彿とさせるエモいトラックに、恋愛というよりは世界からはじき出された二人の姿が描かれる。「いちいち溜飲を下げて立ってたってキリがないし」「誰かをなじっても気分は晴れない」なんて、すごく2022年の感覚だよね。

peeto「WORLD」

柏発4人組カルチャー・ロック・バンド、Peeto。曲調も詞も歌も、熱情というよりは爽やかさに振り切ったものが多いのだけど、特にこの曲に現れる「明日どうなるか分からない/だから今日は笑っていたい」という刹那の感覚こそがその本質なのだと思う。

ado「私は最強」

今年最大のヒット曲を生んだadoだけど、その「新時代」より衝撃だったのがこちら。楽曲を提供した大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)のバージョンと聴き比べると、adoがあの難しいメロディと歌唱のクセを完コピしていることが分かる。ファンとしてはメロディを聴いた瞬間にミセスだって分かるのに、声がadoだから混乱するレベル。そのミセスの「ダンスホール」は今年一番聴いた曲だけど、両方とも音楽が自己啓発になる時代をよく示していた。

yama「それでも僕は」

THE FIRST TAKEに青髪と仮面の姿で登場してから2年。今年はライブ活動も盛んだったyama。Amazon Prime Videoで配信されたドキュメンタリーでは、人前でのパフォーマンス中にパニックを起こした過去や、それでも音楽を諦められなかった自身の経験を語っていたのだけど、そうした自伝的な部分を明かすにつれ、アーティストとしての表現にも深み増したように思う。yama自身の手によるこの曲は、今年出たアルバムのラストを飾る素晴らしい楽曲。

フジタ カコ「群青」

東京出身、21歳のシンガー・ソングライターのフジタ カコ。昨年の「エイプリル」も素晴らしかったけど、この曲も彼女の空へと突き抜けるようなクリアヴォイスがテンションを高めてくれる。ソロアーティストゆえのアレンジの幅の広げ方で楽曲のバラエティも多いし、いい意味で内省的にならずに聴ける音楽をこれからも期待したい。

クジラ夜の街「踊ろう命ある限り」

音源では聴いていたのだけど、今年の年末のイベントで初めてライブを見てひっくり返るほどの衝撃を受けたバンド。この曲だけを聴いてsumikaのようなバンドなの?と思った人はライブ映像を見てほしい。「ファンタジーを創るバンド」と称し、演劇のようなMCで次々と休む間もなく楽曲を演奏するライブの中毒性は高い。何よりリズム隊の演奏力が信じられないほど高い。リハの時点で、このスネアの抜け方はめちゃくちゃ上手い人だわと思ったのだけど、調べたら同じ都立高の軽音部のメンバーで結成された21歳だという。来年はメジャーも決まっているそうで、ちょっとこの後の展開が読めなくてドキドキするバンドだと思った。

ハイトーンロックの次へ

2010年代というと、ヤバTが取り上げるくらいには「男ボーカル声高すぎ」って感じだったのだけど、昨年あたりからそのトレンドは「平均的な声の高さのボーカル+ファルセット」になっている気がする。他方で、いわゆる「ロック」という感じのソリッドで攻撃的な音楽が特徴のバンドも目立っていて、ライブの時代が戻ってくるのだなあと感慨を覚える。

climbgrow「革命歌」

w.o.d.「オレンジ」

CAT ATE HOTDOGS「7th wonder!!」

アルコサイト「オリオン」

Apes「ハイライト」

一方、ベテランバンドの中でも素晴らしい楽曲が続いた。特に今年の後半、ニューアルバムに向けて多くの露出があったELLEGARDENに関しては、以前の曲と並べてもまったく遜色がないのに、どことなく現代の、「悲しいことがあるのは仕方がないけれど、それでも前に進まなくちゃいけないんだ」という感覚を想起させてくれる。いろんな後悔があって、僕たちはここにいる。

ELLEGARDEN「Mountain Top」

LEGO BIG MORL「心とは〜kolu_kokolu〜」

tacia「デッドエンド」

また女性のバンドにも光る才能をたくさん見つけられたのが2022年。ヤユヨの「あばよ、」は、この6/8拍子で演奏しながら歌うのって難しすぎません?って思うけれど、グルーブがちゃんと染み付いているということだろう。カネヨリマサルは、ライブで見ると楽曲以上の熱量があって、これは関西のシーンにめっちゃマッチするよなあと思ったし、お休み明けで一層力を増したFINLANDSも「そうそうこれ!」ってなる。今年、「恋と戦争」をリリースしたリーガルリリーの「ノーワー」は、Vaundyの「Mabataki」と並んで、戦争を背景にした楽曲だけど、あることを、いかにそのまま語らないかが表現の深さを生むことを強く思い知らされた。

ヤユヨ「あばよ、」

カネヨリマサル「二人」

FINLANDS「ピース」

リーガルリリー「ノーワー」

結束バンド「フラッシュバッカー」

そして特筆しておくとすればやっぱり結束バンドなのだと思う。個人的には、2000年代〜2010年代のバンド世代の何かを揺さぶった「ぼっち・ざ・ろっく」だったのは確かだとしても、音楽的にはちょっと距離がある(作曲陣は当事者だしアジカンのカバーもあったけど)と思っていた。アルバムの終盤に収められたこの曲は、いかにも2000年代の下北沢のバンドサウンドって感じがするし、なんならSyrup 16gなんじゃないかとすら思うのだけど、あまりそういう方向で話題にならないな。

弱くあることの自由

男性ボーカル曲では、ロック以外のジャンルでネクストブレイクアーティストがたくさん目に入った年だった。全体的に抑制が強く、大声を張り上げるような曲ではないのだけど、どこか芯の強さとかを感じさせる歌詞、アレンジだったり、2020年代の「感情」ってこういうことなのかなと思わせるところがある。ずっと推してる大橋ちっぽけ君は、今年だとCMソングになって若年層への浸透度が高かった「水星」×「今夜はブギー・バック nice vocal」が代表曲かもしれないけど、敬愛するTHE 1975ばりのトラックに切ない別れを歌う「嫌でもね」の方が好きだったなあ。小林私はラジオでも曲を紹介したけど、ライブで見たことで「なんだこれ」って即検索したという点で、クジラ夜の街と並んで「いまの時代の現場ヒット」を生むタイプのアーティストだと思う。

4na「ミーエンミー」

Mr.ふぉるて「シリウス」

ズーカラデル「ダダリオ」

大橋ちっぽけ「嫌でもね」

小林私「どうなったっていいぜ」

amazarashi「1.0」

そして最後に紹介するのは、何度聴いても涙を止められないこの曲。今年はきっと何かのはじまりとして記憶されるような、そんな年になると思うんだけど、その背後にはたくさんの後悔と失敗と永遠の別れと、その悲しみにすら別れを告げた朝があったはずで、それを忘れずに次に向けて歩き出せたらいいな。

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